第19話
(どうも、東雲純です。じゅんじゃなくてすみね、ここ大事。
今日はね、楽しい楽しい合宿だったわけ。勉強とかはあんまり好きくないけど、友達と一緒に景色見ながら食べ歩きとか楽しくないわけないじゃん?)
古ぼけた木造の倉庫の入り口に東雲純は呆然と立ち尽くしていた。
(そんな中、才華の友達のイケメンくんが突然私の前に現れて、
『なあ超絶可憐なお嬢さん、貴女の愚かな愚かな元カレが今困ってるんだが助けになってはくれはしないかい?』
って言ってきたから仕方なく電話をしたのよ? ええ、仕方なく、ね?)
東雲純は十五歳の夢見がちな少女だ。多分。大体そういっておけば大丈夫って古事記にも書いてある。←流石にない
なので目の前の現実を受け止めきれずに、ついつい先程までの行動をもとに何でこんなところに居合わせているのか振り返っているようだ。
勿論八倉一郎はイケメンだがそんなことは言わないぞ。
(そんで、電話したらアイツ……
『取り敢えずここ行って欲しいんだ、一生のお願い!!』
って言うからぁ、しょ、しょうがないなーって。
仕方なく、ほんっとそのとき友達とか一緒に居たからね? 断りづらい空気にされちゃって、だよ?
マジでホントに何でこんな時にお願いするのかなー、てかこんなお願いを聞いてあげちゃう私ってもしかして女神なのでは?? くらいな感じでホント、ほんっっっっっっとに、しゃーなしに嫌々? 来てみれば……)
「な、なにしてるのセンパイ? あとるーちゃんにほのっちにつっちー……? なにしてるの??」
「あ、えっとぉ……」「やば……」「なんでここにっ!?」「すみ!?」
呼ばれた俺じゃなくて無関係の第三者の出現に明らかに動揺している。
はっはー!!
俺を呼んだのにバレないと思ってる方がおかしいんじゃない?
ねえ知り合いがこの惨状を目の当たりにするのどんな気持ち??
ねえどんな気持ち??
俺は全員許さねえぞ。
「そこに倒れてるの、結音ちゃんでしょ……? なんで、その手……まさか刺したの!? 何て事してるのよ!? ケーサツ呼ぶわよ!?」
因みに東雲には何も教えていない。俺は注意を引いて貰うためだけにこの場に来るように言った。
『この場所行って大声で叫んでくれる?』←こんな感じ。
こうもヒステリックに叫ぶ様子を見ていると流石に俺を苛めていた人間だとしても……ちょっと、悪いことしたかなぁ。
頼んだら即答で『いいよっ!!』って言ってきたのも相まって罪悪感が凄い。
「ちょちょまってケーサツはマズいって」「囲むか?」「囲も」「囲もう」
東雲に向かって各々倉庫内に転がっていたであろう鉄パイプとかナイフとか持ってじわじわとにじり寄って行く女衆。涙目で後退りする東雲。それを全く別の場所から覗き見る俺。
俺からは顔までは見えないけどたぶん相当にイカれた面をしてるんだろうな。だって知り合いに犯罪の現行犯見られてんだもんね、そりゃあ狂気的にも見える。俺だって囲まれたら泣くわね。
『準備OKよ』
────新井さんの合図が来た。ありがとう東雲。フォーエバー東雲。急いで逃げてくれ。元気になー、もう関わるんじゃないぞー。
……まぁ、東雲には届いてないんだけどね。合図。
「よし」
俺はスピーカーを倉庫に投げ込み、そしてスマホのマイクに向けて叫んだ。
『
「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」
俺の声がスピーカーを通して耳やスピーカーをぶっ壊すんじゃないかって言うくらいの大音響が倉庫を揺らす。キーーン、というハウリングまで付くおまけ付き。
俺は耳栓をしてたけどちょっと貫通してきたな……。東雲? アイツは……。
「ぴえっ」
鳩がマシンガン食らったような顔で奇声上げてら。スピーカーが転がっているのは結音の近く。入り口は程遠く、東雲へのダメージは。それはまあ良いとして
「こんにちはー」
「なん……だ、この音、は──ぐげぇっ」
東雲が興味を惹いたお陰で、俺は別の入り口から誰の目にも触れずに忍び込むことに成功した。結音を抑えている女がスピーカーからの爆音で怯んでいる隙に駆け寄り、肩を思い切り木刀で押して退ける。おまけに一発蹴っとく。
結音は顔や手足が赤くなっていた。既にいくつか痣になっているのが見える。あーあ、酷い。結音が何かした?
……いや、したんだろうな。うん。俺も弱み握られてるからわかるよ。そうだよね。
俺は結音の傷の具合を一目見て、押し転がした女へ視線を戻した。立ち上がろうとしていたからもう一度、今度は本気で蹴り倒した。
「さ、才君……」
「裏口、凜音さんがなんやかんやして開けたからそっちから逃げるよ、立てる?」
言いながら笑みが漏れる。
裏口は本当は鍵がかかっていた。新井さんがあっさり一瞬で開けたあの手際の良さ、思い出すとどうも笑ってしまう。普通の高校生は鍵開けなんてスキル備えてるわけないじゃん。普通の鍵を3秒位で開けたけど。
手を差し伸べる。さっきの挨拶のときには結音は耳を塞げなかっただろう。耳が機能しているか怪しいから、何言っても通じないかもしれない。
「たてるから、だいじょぶ」
結音はなんとも弱った様子で立ったものの、ふらふらしている。露骨に弱っている結音と言うのは、なんか嫌だな。
「強がらなくていいから、ほい」
俺はそう思って、結音を強引に背負う。
「ま、待てやテメェ!! 逃がすと思ってるのか!? 乙女の顔を蹴りやがって」
「そもそも手を出したのはそっちが先だし。だいたいこのままで只で済ますと思ってるの?」
「知るか!! その女をボコす分には関係ねえってそこの女が言ったんだよ!! だからいいんだよ!」
指差されたのは近くで仰向けに倒れている女。気絶しているらしく、動く様子はない。
は? そんな理由で人を襲って良いわけがあるか。
相手してらんない。こんなところなんかに居られるか!! 一足先に帰らせて貰うっ!!!
「てか才華ぁ!! 助けてー!!」
「あ?」「才華って?」「あー、結音のカレシか」「気付かんかったわ」「てか逃げられんの不味くね?」
東雲囲いにバレた。口々にいつの間に居たのか? みたいな事を言われてる、苦笑。
「は??? アイツは私の彼氏なんだけど???」
何故か東雲がキレた。それも違うぞ。
「噛みついてねえで逃げろよ東雲!!」
アイツは平気そうだとは叫びつつも思う。なぜならウィンウィンとけたたましくサイレンが鳴り響いたからだ。
「えっ、これ何の警報!?」「うわっ、ケーサツ!! ケーサツ来た!!」
「新井さんナイス……っ」
俺は結音を背負ったまま、一目散に入ってきた扉から飛び出した。
あーーー警察の人ぉぉぉ!! 助けてぇええ!!!
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