第64話 本当の‥‥‥

 俺と翔先輩と明菜さんの話をしていた時、ドアの外から、「コトッ」とする音に気づいた翔先輩が、ドアを開けたが誰も居なかった。



 「先輩、どうしました?」

 「うん、誰かが居たような気がしたんだが‥‥‥気のせいか?」



 俺と翔先輩が話していると、明菜さんだけは、しかめたような目で考えていた。



 『まさか‥‥‥由奈先輩が‥‥‥』



 そう思っていた。

 その頃、柚葉の2人は丁度病院の待合室の所にいた。

 そこで、浮かない表情の由奈を見た娘の柚葉が声を掛けた。



 「あっ、ママどうしたの?こんなところで何してんの?」

 「‥‥‥う、うん。ちょっと忘れ物したみたいだから一度帰るわね」

 「えっ?だったら私が取ってくるわよ」

 「あっ‥‥‥うん、いいわよ。私が行くから‥‥‥フミ君の事、頼むわね」



 そう言うと、由奈は一人で病院前にあるバス停の方へと歩いて行った。

 由奈の表情と後ろ姿が、元気のないように見えた、2人の柚葉。

 小さい柚葉が大きい柚葉に、



 「お姉さん、おばさん何か変じゃなかった?」

 「うん‥‥‥『何かあったのかな‥‥‥』」



 そう言うと、2人の柚葉は俺の病室へと足を向けた。

 バス停で一人たたずむ由奈。

 ただ‥‥‥その心は今は、なぜ?どうして?私はどうしたいの?

 を繰り返していた。何度も何度も、それはリプレイされた曲のように‥‥‥。



 『‥‥‥私はどうすれば‥‥‥フミくんの事が‥‥‥けど‥‥‥フミくんは‥‥‥アメリカ‥‥‥一年‥‥‥遠い‥‥‥長い一年‥‥‥私はどうすれば‥』



 その頃、病室では‥‥‥



 「コン、コン。お兄ちゃんはいるよ」



 小さな柚葉が病室の扉をカラカラと開き入ってくると、大きい柚葉が後ろから入ってきた。



 「柚葉、こんちー」

 「こんちー、お兄ちゃん♡」

 「こんにちわ、お兄さん」



 2人の柚葉を見た俺は、また部屋に綺麗な花が二つ舞い込んだ感じで、挨拶をした。

 けど‥‥‥いつもいる由奈さんがいない事に気づき、



 「うん、ママ、何か忘れたみたいでアパートに戻って行ったけど‥‥‥」

 「うん?どうしたんだよ?」

 「う、うん‥‥‥それがママ、何か変なのよ」

 「変?」

 「そうだよ。何かこ〜、思い詰めた感じと言うか‥‥‥」



 最後に小さな柚葉がそう言うと、小さな柚葉の母親の明菜さんが、やはりとした表情をして、



 「由奈先輩‥‥‥やっぱり聞かれていたんだわ」



 明菜さんの言葉に、俺と翔先輩はハアッ!と気づくと、俺は上半身を起こしたベットから出ようとした。



 「フミ!なにしてるんだ!」

 「なにて!俺、由奈さんを追いかけないと!」

 「バカ言うな!今のお前は怪我を治すのが優先だ!それに怪我が悪化したらどうする!」

 「けど!‥‥‥けど先輩!、俺は‥‥‥」



 俺と翔先輩が言い合いをしていると、小さな柚葉が、どうしたの?とした表情で俺達を見る。しかし、大きい柚葉はだいたいの事は感づいていた。

 いや、多分知っていたんだろうと。

 アメリカの事は知らなくても、2人の気持ちを。

 俺と由奈の一番近くで見ていたから。

 けど‥‥‥大きい柚葉はその事を言えなかった。柚葉も‥‥‥もう1人の柚葉も俺の事が好きだったから。


 だから‥‥‥俺は‥‥‥



 「先輩、俺のスマホ、取ってもらえますか?」

 「うん?あ、ああ」


 

 俺はスマホを受け取ると、真剣な面持ちでスマホの画面を睨んだ。

 俺のその姿を見て、明菜さんは、



 「みんな、あっち」



 人差し指をドア側に向けて、部屋から出ようとゼスチャーをして、今度は自分の口近くに人差し指を近づけると、俺以外を部屋から静かに出した。



 『フミちゃん、がんばれ!』



 そう心で呟くと、静かに病室のドアを閉めた。



 部屋に残された俺は、スマホの画面と暫く睨み合うと、一呼吸置き、電話を掛けた。


 そして‥‥‥


 俺は、今の気持ちを‥‥‥


 正直に言った。包み隠さず‥‥‥




 あの人に‥‥‥



 由奈に‥‥‥。


 

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