第63話 決意

 意識が戻り、目覚めた俺に両親や翔先輩達は、涙を流して喜んだ。特に、2人の柚葉は。

 そして一週間後、俺はICUから一般病棟の個室へと移った。 

 暫くして、俺の両親は、安心したのか、海外の仕事に穴を開けられないとの事で、海外に戻って行った。

 その帰り際に、



 「お前はどうするつもりなんだ?」


 「えっ?どうするって?」


 そう答えると、俺のおやじとおふくろはため息をして、おふくろが俺に、



 「あなたは昔から自分の事には鈍かったからねぇ〜」


 「うん?」



 笑いながら俺に言ってきた。

 で、帰り際におやじが、



 「まあ、次に会う日が楽しみだな」


 「はあ?楽しみ?」



 などと、ニコニコしながら帰っていった。

 俺は、その言葉に首を傾げながら、病室のベッドの上から両親を見送った。

 その後は、俺の両親の変わりに、柚葉達が俺の身の回りの世話をしてくれた。

 最初目覚めた時は、左腕が肩から下が無いのに驚き、絶望感が出たが、柚葉達が俺を励まして、元気付けてくれたおかげで、俺は笑顔を戻し、そして、ある決断をする事になる。

 それは、俺が入院してから一カ月ちょい経った日のある日、翔先輩夫婦が俺の世話をしに病室に来た時の事。



 「フミ、あと少しで退院だな」

 「ええ、これも先輩達のおかげですよ。病院の先生も、こんなに早く退院できるなんてて驚いてましたから」

 「そうだな。あっ、お前が全開したら何かおごれよな(笑)」

 「あなた!」



 明菜さんが翔先輩の横腹に、ドスッと軽く肘打ちをすると、翔先輩が、あたたと脇腹を押さえるのを見て、俺は笑顔を見せた。

 


 「先輩、昨日、社長が見舞いに来ましたよ」

 「社長がか?」

 「ええ。例の件についても話してきました」

 「‥‥‥あの件か。‥‥‥で、お前はどうするつもりなんだ?」



 翔先輩の問いに俺は今は無い左腕を見て、暫く考えていた。

 そんな真剣な表情の俺と翔先輩を見た明菜さんは、なんの事かわからなく話してきた。



 「あの件て?」

 「‥‥‥」

 「フミちゃん?」

 「‥‥‥」

 「あなた、あの件てなんなの?知っているなら教えて!」



 明菜さんは翔先輩に詰め寄ると、更に翔先輩に威圧を掛けると、困った表情をして俺の方を見る。



 「良いですよ先輩。どうせ近いうちに話さないといけないのですから」

 「いいのか?本当に」

 「ええ‥‥‥」



 俺が首を縦に振ると、翔先輩が明菜さんに向き言った。



 「明菜、前に会社で今度、新たな義手を作る話があったてのを話した事あるよな」

 「‥‥‥ええ。確かに聞いたわ」

 「社長がな‥‥‥そのプロジェクトのリーダーにフミに参加して欲しいと言って来たんだよ」

 「えっ!プロジェクトのリーダーに!フミちゃんすごいじゃないの!」



 喜ぶ明菜さんに、翔先輩はなにか物悲しげな表情をすると、それを見た明菜さんは、



 「あなた?‥‥‥どうしたの?」

 「‥‥‥ああ‥‥‥それでだな明菜」

 「うん?」

 「‥‥‥フミに一年間アメリカに行ってもらう事になるんだよ‥‥‥」

 「えっ?‥‥‥アメリカ?、嘘でしょう?」



 明菜さんは、まさかとした表情で俺を見るが、俺は明菜に少し笑顔で答えるだけ。

 そんな俺を見て明菜さんは、



 「ねぇ、フミちゃん、嘘でしょう?アメリカって!」



 まるで焦って言っている明菜さんに俺は小さく首を横に振るだけだった。

 


 

 

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