第65話 幸せに‥‥‥
静まりかえった空港内。
時間は深夜の一時を回ろうとしていた、クリスマスも近い12月。
「ウゥッ、流石に寒いな〜」
俺はスーツケースを受け取り、ゲートを潜るり、皆んなが待つであろう、中央ロビーへと向かった。
「流石に深夜では、空港内には誰もいないか」
静まりかえった空港内は、先程同じ飛行機に乗っていた乗客のスーツケースを引っ張る車輪だけが、カラカラと響くのみ。
そんな中、俺は広いロビーに出た。
深夜では街へ行く駅も閉まっている。
店などは空いてるはずもなく、空港内にあるコンビニが空いているだけだろうか。
「‥‥‥みんな、まだ来てないのか?」
俺は、近くにある自販機で、ホットコーヒーを買い、ベンチに腰掛けた。
「本当に静かだな‥‥‥まるで俺だけしかいないみたいだ‥‥‥けど‥‥‥帰ってきたんだな‥‥‥」
俺は広いロビーで、ポツリと一人で浸っていると、日本に着いて安心したのか、旅の疲れが出たのか、段々と目が閉じていく‥‥‥
そして、暫くすると
‥‥‥ちゃん‥‥
「‥‥‥う、うん‥」
‥‥‥に‥‥‥ちゃん
「‥うん?‥」
‥‥‥お兄ちゃん♡
「‥‥‥柚‥葉?」
俺の耳に、懐かしく、可愛らしく、透き通るような女の子の声が聞こえてきた。
が、まだ俺は半分寝た状態。
「「お兄さん♡」」
大きい柚葉と木野りんが言う。
「お兄ちゃん♡」
小さい柚葉も言う。
で、俺は半分まぶたが閉じた状態で見ていたので、思わず、「誰?」と答えてしまったから、三人は頬を膨らませ、怒ってしまいましたよ。
小さい柚葉なんか、「愛する人を忘れるなんて!ぷんぷん!」なんて言っていたそうです(後からその事を聞いた。てか!俺がいつそんな事言ったんだよ!)
で、柚葉は、腹いせに俺の鼻をムズッと摘みましたよ。
そのせいで、俺は目が覚めましたよ。
「なにするんだよ!」
「なにて、お兄ちゃん、目を覚まさないんだもん!」
「そうよ、お兄さん。日本に帰って来たからって安心しすぎ!」
「えっ、あー‥‥‥ごもっともです」
「それに、私は兎も角、柚葉ちゃんや柚葉を見て、誰?はないでしょ!誰は!」
「そ、そうですね。すみませんです」
俺、美少女三人から責められましたよ。
にしても、日本に帰っていきなり、こんな再開はあんまりですよ。なんて俺は呟いていたら、
「みんな、フミ君をいじめちゃダメよ」
その声に、項垂れている俺は、ピクリと反応する。懐かしく、俺の心を癒す声。
俺は声の聞こえる方を振り返る。
そこには、肩から少し長い綺麗な黒い髪。そして、茶色のコートを着込んだ、俺が今一番会いたかった人、由奈が笑みを浮かべ立っていた。
「‥由奈さん」
俺が一言名を言うと、由奈はニコリとまた笑みを浮かべ、俺の方にゆっくりと歩んでくる。俺も由奈にゆっくりと歩んで行く。
そして、俺と由奈の距離が僅かになって、2人共、立ち止まる。
そして、由奈から
「お帰りなさい。‥‥‥フミ君」
また、ニコリとする由奈に俺は、改めてこの人の笑顔から癒しをもらい、
「た、ただいま///由奈さん」
俺は半分照れながら、残りの半分は申し訳ない気持ちで挨拶をした。
この、申し訳ない気持ちとは、実は、
「お兄ちゃん!(ちょっと怒り)、半年帰るのが遅くなるなら、早く言ってよ!」
と、まあ〜小さい柚葉に言われました。
そうなんです。一年の研修が半年も伸びてしまいましたんです。
で、ですね、柚葉2人と木野りんから、更にお叱りを受けました。
俺の前にいる、由奈さんは
「もう、そのくらいにしてあげてね。フミ君も気にしてるみたいだし」
「由奈さん(嬉し泣き)ありがとう」
俺が由奈の気持ちに感動していると、後ろの三人娘は、俺を睨んでいるんです。
で、大きい柚葉が、
「お兄さん!ママに言う事はないの!」
「えっ?由奈さんに?あっ!まだ由奈さんに謝ってなかった!」
なんて、俺が真剣な面持ちで言ったら、柚葉達が
「「「違うでしょうお!!!」」」
「へえ?」
「「「へえ?じゃないの!」」」
「えっ?謝るんじゃないの?」
「「「謝るんじゃないの!準備して来たんでしょう!」」」
「‥‥‥あっ!て、今ここでするの?」
「「「そうよ!!!」」」
三人は俺に圧をかけますよ〜。しかも、静まりかえった空港内に三人の声が響く響く。
まだ、数名いた乗客や空港内の係りの人が、何事かとこちらを見てますよ。
で、俺は根負けして
「///あ、あ、あ、あの、ゆ、ゆ、由奈さん///」
「はい」
「///ゆ、ゆ、由奈さん!///」
「はい」
「///ゆ、由奈さん!///」
「はい」
こんなやり取りを見て、またも痺れを切らし、大きい柚葉が、俺の背中を押して
「お兄さん!がんばれ!」
「お、おう///」
俺は持っていた鞄から、ある物を取り出すと、由奈の前に差し出し、一呼吸して、
「///ハアッ〜。由奈さん!お、お、俺と一緒になって下さい!///」
俺は顔から火が出る思い出、由奈にプロポーズをした。
だが、由奈の表情からは嬉しい表情は見られない。寧ろ、何が引っかかっている感じがする表情をしていた。
「‥‥‥フミ君」
「///はい!」
「私でいいの?」
「///はい!」
「私はバツニよ‥」
「気にしません!」
「あなたの左腕は私が‥‥」
「違います!これは俺が望んだ事!」
俺は左腕の袖を上げると、俺の左腕についている新しい左腕の義手を見せた。
それは白く、いかにも軽そうな感じがする義手。たまに手を動かすと、組み込まれたアクチュエーターが「チュィ」と小さな音を立てる。
「由奈さん‥‥‥俺は、この左腕は由奈さんがくれた物だと思っているんです」
「‥‥‥私が‥」
「この左腕の義手を見ていると、いつも由奈さんがそばにいる‥‥‥そんな感じがするんです」
「‥‥‥けど‥それでも‥」
由奈はまだ悩んでいた。俺への申し訳ない気持ちなのか、由奈がバツニのせいなのか。
「由奈‥‥‥俺、バツニの事なんか気にしませんし、左腕の件は、これはこれで俺は良いと思うんです」
俺がそう言うが、由奈はまだ悩んでいた。
俺は由奈の目を見るが、由奈の視線は俺から逃げていた。いや、逃げると言うより、避けていたと言った方が正しいのか‥。
「由奈さん、俺は今まで仕事は金儲け程度しか考えてませんでした。けど、左腕をなくし、義手を着けてわかったんです」
「‥‥‥わかった?」
「俺はこの義手を、いや義足でも、安価で性能が良い物を、俺みたいに体の一部をなくした人に届けたいんです。その為には俺の側でサポートしてくれる人が必要なんです!」
「それで。私を‥‥‥」
「後‥ですね‥///俺‥俺‥///‥‥‥高校時代に初めて会った時から///‥‥‥由奈さんに一目惚れしてました!///」
「一目惚れ‥‥‥フミ君が私を‥」
「はい!///だから、だから、俺は///三度目の正直!俺が由奈さんを幸せにして見せます!だから、俺と結婚して下さい!///」
俺は由奈に頭を下げて、プロポーズの言葉口に出した。
静まりかえった空港内で、俺の声が響き渡り、柚葉達は「漸く言った」見たいな感じで俺を見てますよ。
空港内に居た数人の人も、俺と由奈に注目しますよ。
「‥‥‥フミ君」
「はい!///」
「一目惚れて本当?」
「はい!あの時からずっと!」
「私はフミ君を恨んでいた時もあるのよ」
「俺は、そんな由奈さんも好きになったんです!」
「私は‥私は‥私は‥‥‥」
「由奈さん」
俺は由奈に優しい微笑みを由奈に向けると、由奈の目から光るものが見えた。そして、由奈が俺に抱きついて来て、俺の胸に顔を埋めた。
「私でいいの?」
「はい!由奈さん、俺と一緒になってくれますか?」
俺の言葉に由奈はゆっくりと、コクリと頷いた。それを見ていた柚葉達はヤッタ!とばかりに三人でハイタッチ。
周りに居た数人の人からは、拍手とおめでとうの声が聞こえた。
そして、俺達がいる空間だけが、12月の寒い日なのに、まるで暖かい何かに包まれていた。
そんな日から‥‥‥
何年か経った‥‥‥
俺がドアをノックする。
「柚葉、入るよ」
「どうぞ」
俺がドアを開けると、よそよそしい声で柚葉が答えた。
由奈と結婚した俺は、大きい柚葉の父親になった。
最初は「お兄さん」と言っていた柚葉も次第に「お父さん」と呼ぶようになったが、たまに「お兄さん」と言う時がある。
その時は、流石に俺も赤面してしまう。
「柚葉‥‥‥」
「うん?何?お父さん」
「う、うん。由奈は?」
「えっ?お母さんなら、直ぐに戻って来るわよ」
そう言っていると、ドアのノックがして、由奈が入って来た。その後ろには大学生になった、小さい柚葉‥もとい、若葉柚葉が居た。
「柚葉、りんちゃん達には言って来たわよ」
「うん、ありがとうお母さん」
「お姉さん、改めて見るけど、本当に綺麗‥」
「ありがとう、柚ちゃん」
「うん!本当、綺麗!」
若葉柚葉と由奈の間から、ヒョコと姿をだした少女が柚葉を見惚れていた。
「ユミちゃん、ありがとう」
「うん!(笑顔)」
笑顔で返事をするユミに、姉の柚葉が笑顔をユミに返す。
このユミは、俺と由奈の間に出来た娘だ。
ユミはどちらかと言うと、由奈似だ。
由奈は最初は子供は諦めていたが、子供が出来て一番喜んだのは、実は由奈ではなく、柚葉だった。姉妹が出来たのだから、仕方がないと言えば仕方がないか。
俺と由奈が結婚するまでは、ずっと、母親の由奈と二人きりだったから。
「ほら、ユミ。お姉ちゃんに抱きつかないの」
「お母さん、別にいいわよ。だって‥‥‥今日で私は‥‥‥」
柚葉が少し涙声にして話した。
由奈は、そっと柚葉の目にハンカチを当てた。
柚葉は今日で、俺と由奈から離れていく。
柚葉の愛する人の元へと‥‥‥。
そう、今日は柚葉の結婚式。
俺は柚葉のウエディングドレス姿を見て、涙するのかと思っていたが、それよりも、
「漸く、お前には幸せが訪れたよな‥‥‥違うか。今からが幸せになる時間が始まるんだよな」
「うん‥‥‥あのね、お父さん」
「うん?」
柚葉の返事に、俺が笑顔で頷くと
「お父さん‥‥‥今日‥‥‥今だけ、お父さんをお兄さんて、呼んでいい?」
柚葉が言葉を少し詰まらせながら俺に言ってきた。俺は柚葉の目を見ると、潤んだ瞳が目に入った。
「‥‥‥柚葉。ああ、良いよ」
柚葉はニコリとして、俺を見た。そして、何かを我慢しているように、言葉を俺に言った。
「‥‥‥お兄さん」
「うん?」
「お兄さん、お母さんと結婚してくれて、ありがとう」
「うん」
「ユミちゃんを‥‥‥私に妹を作ってくれて、ありがとう‥‥‥」
「うん、うん‥‥‥柚葉?」
急に柚葉が、下を向いて黙り込んだ。
俺は柚葉の肩に、そっと手を置くと
「お兄さん!」
バァッ!と、俺の胸に飛び込んできた。
そんな柚葉の目から、我慢していた涙が溢れ出てきた。
「お兄さん!お兄さん!‥私を‥短い間でしたけど‥私を育ててくれて‥ありがとう」
俺の胸の中で泣きながら、柚葉はありがとうと言っていた。
俺は初めて、由奈達の前で涙を流した。
そして‥‥‥俺は思う。
人は幸せをこうして受け継いで行くんだと‥‥‥。
苦労に苦労を重ねても、それが永遠には続かない。いつかは幸せが訪れるんだと。
二人の柚葉
終わり
俺と二人の柚葉 本田 そう @Hiro7233
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