第58話 助けた‥‥‥

木野を人質にした犯人が動いた。

木野が逃げないように、犯人の腕に力が入り、右手に持ったサバイバルナイフを木野の頭上に掲げた。


「これが頭から刺されたらどうなるか、楽しみだぜ!」



木野は自分の頭上にサバイバルナイフがチラリと見えると、恐怖で体が硬直をして、気を失った。

それを見た警察官達は、犯人に集中した。

規制線のテープから抜け出せた俺は、警官に気付かれずに犯人目掛け走り出した。



ーーー感情よ!高ぶれ!ーーー


『‥‥‥ドックン』


俺が一歩踏み出すごとに、体の中から何かが湧き上がる。

それは何か熱いもの。

この感覚は‥‥‥

柚葉や木野を助けた時の感覚。


俺の視界に服の黒色が見える。



『ドックン‥‥‥』



更に何かが俺の体中に湧き上がる。

それと同時に、俺の視界がまるでゆっくりと流れるように見えはじめた。



ーーー周りが‥‥‥止まって行くーーー



それはまるで俺だけが取り残された感じ。

俺だけが時間を進めていく感じ。

そして、



『ドックン‥‥‥』



俺の心臓‥‥‥鼓動が早くなる。



『ドックン‥ドックン‥ドックン‥ーー』

俺の鼓動が早くり‥‥‥

俺の地面を蹴る足も、動かす体までもが早くなる。

それはまるで、体に羽が生えたような感じ‥‥‥

それはまるで、体が重たい重力から解放されたような感じ‥‥‥

それはまるで、背中を押されたような感じ‥‥‥



「タッ!」



俺は地面を蹴る次の瞬間‥‥‥



ーーーフッ‥‥‥ーーー



自分の気持ちが、意識が、全てが飛ぶ。



そして気がついた時、俺は犯人と木野の前に立っていた。

周りにいた警官や、野次馬はいったいなにが起きたのか分からず、いきなり犯人の前に現れた俺に、言葉が出ないほどに驚いていた。


犯人も俺がいきなり現れた事に驚き、サバイバルナイフを持ち振り上げた右腕の動きが止まる。

俺はすかさず、サバイバルナイフの持った犯人の右手首を右手で掴むと、力を入れて握り、そしておもいっきりひねった。



「なあ、ガアッ!」



右手首をいきなりひねられた犯人はたまったものではない。

右手首に痛みが走ると、持っていたサバイバルナイフを地面に落とした。

そして、木野を掴んでいた左腕を離す。

気を失った木野はまるで崩れ落ちるかのように倒れる。

俺はすぐさま木野を右腕で支えた。


そして‥‥‥



「早く!犯人の確保を!」



俺の叫びに、一人の警官が気づくと、



「‥‥‥ハアッ!‥か、確保!」



その叫びに、警官は犯人を取り押さえた。



「クウッ!離せ!離せ!このやろうー!!」



警官に取り押さえられた犯人は、暴れ騒ぐが大の大人五、六人に取り押さえられては身動き一つできるわけはない。

俺はその光景を見て安心したのか、深いため息をした。



「はあ〜、何とかなった」



俺は気絶している木野を見て一安心していると、規制線の外から俺を呼ぶ声がした。



「フミー!」



見ると翔先輩が手を振りながら叫んでいた。



「あいつ、無事みたいだな‥‥‥よかった」



胸をなでおろす翔先輩の横には二人の柚葉と、由奈と明菜さん、草野が立っていて、無事な俺を見て、全員安堵のため息をする。



「お兄ちゃーん!」

「お兄さーん!」



手を振る二人の柚葉。



「竜君‥よかった」

「フミちゃん、由奈先輩」

「ええ。よかった‥‥‥フミ君」



まるで無事を祈っていたかの様な顔をする由奈達。

俺は二人の柚葉達の所へと向かう。



ーーーいつかは壊れるものーーー

俺は一歩



ーーー限界をむかえるーーー

また一歩



ーーーどうしようもないーーー

また一歩



ーーーさようならーーー

また一歩



そして‥‥‥

それは‥‥‥

突然に‥‥‥

来た。



ーーーブチッーーー



俺の体の‥‥‥左肩の辺りから何かが切れる感覚が。














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