第57話 普通ではない

木野 りんが逃げたコンビニ強盗の男に拉致、人質にされてから既に2時間ぐらい経とうとしていた。

犯人の男もかなり苛立ちだし、木野が着ていたメイド服をサバイバルナイフで切った。

木野は涙を流し、声が出ない程おびえていた。

取り囲んだ警察も迂闊に手を出すことができない。

しかもあの犯人の男の精神状態は普通ではないらしい。

それは‥‥‥



「先程、コンビニで切られた店員は救急車で運ばれたと。怪我の方は腕を切られただけだそうです」



規制線の前の野次馬に立ち往生した俺の近くに居た警官のやりとりが聞こえた。

しかもその聞こえた内容のなかで、犯人は取り押さえて逃げようとして切りつけたのではなく、自ら犯人が店員に向かって切りに行ったと。

たぶん、あの犯人は木野を刺すだろう。

あれだけ逃げ場がないんだ。普通の強盗犯なら降参している。

だが犯人は人質を取った。

その前に人を切りつけている。

更に追い込まれれば木野の命が危ない。

多分犯人は人を切ることに快楽しているやつだ。

そんな奴から早く、柚葉の大事な友達を助けないと。


俺は野次馬の人混みからなんとか抜け出し規制線の先頭にでる。



「居た!」



警察に取り囲まれた僅かな隙間から、木野の姿が見えた。

犯人は右腕で、木野の首を掴ようにし、サバイバルナイフを首元に近づけていた。



「よしなさい!その子を解放するんだ!」

「うるせー!それよりも車はまだかよ!」

「うっ、今、車の手配をしている」

「早くしろ!『なんてな。逃げようが捕まろうが、こいつを切り刻んでやりたく、こっちはうずうずしてんだよ!あー、この女を切ったらどれだけの血がでるかわくわくするぜ!』」



犯人は平然とした顔をして、木野の首元に更にサバイバルナイフを近づける。

木野はそれを見て更におびえ、震え出す。



『誰か助けて‥‥‥』



俺はその光景を今は遠巻きで見ることしかできなかった。

今、俺が動けば犯人は木野を盾にして、木野を刺すだろう。

犯人が木野に集中している、その僅かなチャンスを俺は待っていた。

そんな俺は一瞬、左腕に目がいき、医者に言われた言葉が頭をよぎる。



左腕が死滅する‥‥‥



俺は左腕の左手を動かしながら、左手を見つめていた。

そして拳を作ると、



俺の左腕の限界か‥‥‥。

俺の左腕がなくなると、柚葉や由奈さん達に怒られるんだろうな‥‥‥

由奈さんなんて、泣いていたからな‥‥‥



俺がそう思っていた時、犯人が叫び出す。



「もうまてねー!」

「よせ!」



犯人の男はニヤリとした表情をすると、木野を自分に寄せる。そして木野が抵抗できない程に腕に力を入れる。

木野は「キャー!」と叫んだ。

そんな木野を見て、俺は



「動いた!今しかない!」



俺は規制線のテープをくぐると、犯人に向かい走り出した。















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