第52話 悩み

私は今、幸せの中にいる?

草野 香織さんの、あなたが羨ましかった、の言葉で私は気づいた。

フミ君と暮らし始めて三カ月。

いつの間にか私は、以前の不幸と呼べる、暗い生活から抜け出せていた。

毎日が楽しく、笑って暮らせる生活。

フミ君がいて、明菜がいて、娘の柚葉がいて、みんながいる。



「私は、今幸せの中にいたんだ‥‥‥けど‥草野さんは『羨ましかった』と言った。何故?

フミ君の事が好きだったの?私はフミ君の事が‥‥‥私の幸せはフミ君がいての幸せ‥‥‥けど‥この人も」



由奈は心の中で呟く。

そして、今の自分の正直な心を押し殺して、草野に問う。



「草野さん。あなたはフミ君の事が‥」

「松塚さん‥‥‥ええ、好きよ」

「!‥‥‥」

「けどね、私のフミ君への好きは、松塚さんの気持ちとは違うの」

「えっ?違うって?」

「私のはLoveではなくlikeなのよ」

「like?」

「ええ、好きは好きでも違う好き。けど、私も竜君に助けてもらえていたら、変わっていたかも‥‥‥」



そう言った草野の目に少しの涙が見えた。

そんな草野に俺は優しい言葉を‥‥‥



「てい!」俺は草野の頭を軽く叩く。


「痛い!う〜っ、な、なにするのよ!」

「はあ?なにって、お前の頭を叩いたが」

「あんたねー、少しは優しい言葉をかけれないの!」

「お前に優しい言葉?お前に優しい言葉なんてかけたら図に乗るからな」

「な!何ですってー!」

「おっ!怒ったか?」

「竜君!このバカ!」

「おっ!」

「おたんこなす!」

「おっ!」

「鈍感!」

「おっ!」

「女ったらし!」

「おっ!」

「この‥この‥この‥」

「おっ!ネタ切れか?」

「この‥‥‥バカ‥」



草野は俺の胸に飛び込んで、俺の胸を叩いた。その力はあまり力強くはなかったが、心に響く痛みだった。

こいつは‥‥‥草野は今まで我慢に我慢を重ねていたんだろう。

けど誰にも話せないでいた。

自分の内にしまいこんで。

しかし、その器もいっぱいになる。

そんな時、俺と由奈に会った。

そして、草野の押さえていた感情が一気に吹き出た。



「なあ、草野、せっかくまた会えたんだ。お前の愚痴なら聞いてやるよ」



草野は俺を見ると



「本当に?昔みたいに?」

「ああ、‥‥‥うん?昔みたいに?」

「じゃあ今晩、あんたのおごりで話を聞いてよね」

「はあ?おごり?」

「当たり前でしょう、男がか弱い女を助けるのは」

「か、か弱い?」



俺、思い出しましたよ。こいつ昔から御都合主義の性格でした。

で、由奈に助けを求めて



「ゆ〜な〜さ〜ん(涙)」

「ウフフ、か弱い女を助けないとね、フミ君♡」



あー、今晩は草野こいつに奢らないといけないのかー(更に涙)












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