第49話 好きな訳

「竜君、私は高3の時から貴方の事、好きだったのよ。気づかなかった?」



そんな事を俺に少し笑みを浮かべ言ってきた草野は、俺を見るとなんだか昔を思い出すような表情をする。

そんな草野に俺は真顔で



「けど、俺、お前が俺に好意を抱いていたなんて、これっぽっちも感じなかったぞ」

「それはそうよ。竜君にだけはわからないようにしていたんだからね♡」

「けど、なんで俺なんかを‥‥‥」

「それはね‥‥‥」



草野曰く、草野が秋野先輩にフラれたのが7月の頭、それから草野はかなり落ち込んでバドミントン部にも出なくなった。

そんなおり、八月の男女合同合宿の時に怪我をして、せっかく出れたインターハイを不意にしただけでなく、左腕に後遺症が残りバドミントンが出来なくなった男子がいる事を聞いて、どんな男子か見にきた。

それが俺だった。

そして初めてまともに俺を見た草野の第一印象は、なんて暗い男だと言う事らしい。

このらしいとは、俺はあの怪我のあと、みんなに心配かけまいと無理に笑顔を作っていたが、草野にはそれがバレていたと後から草野に聞いたからだ。



「あんた、本当に暗いわよね!」

「はあ?俺にケンカ売ってんのかよ!」

「違うわよ!私と同じて事よ!」

「なんで貴様と同じなんだよ!」

「その目よ!私と同じで死んだような目をしているからよ!」



こんな感じで、草野から話をされたが喧嘩腰で話しかけられた為に、最初は草野の事を俺は嫌っていた。


草野自身も俺の事を自分と同じで、落ち込んで暗くなった人、みたいな、いわば同類程度に思っていたんだろうと俺は思っていた。


そして暫くはそんな喧嘩腰の様な会話が続いたが、 草野があの秋野先輩にフラれたとの話を聞いて俺は草野に対して態度を変えた。



「草野、お前大丈夫なのかよ?」

「なにがよ?」

「お前のその暗い原因はフラれたのが原因なんだろ」

「はあ?なによいきなり」

「いや、お前は俺に何をもとめているのかと思ってな」

「何よ?それって。アンタなんかになにももとめてなんかないですよーだ!」

「そうか‥‥‥なにもないならいいや」

「‥‥‥あっ!一つあったかな」

「なにがだよ」

「アンタの事、竜君て呼んでいいかな?」

「はあ?なんで竜君だよ?」

「竜宮橋だから」

「『竜宮橋だから』か。まあ、別にいいよ」

「うん、今日から竜君ね(笑顔)」



確か、あの日から草野は俺の事を竜君と呼ぶようになった。

そして草野とはいつのまにか笑って会話が出来るようになっていた。


そして高校を卒業する日に、草野は俺に礼を言ってきた。



「竜君、今日で卒業だね」

「ああ、そうだな」

「ねえ、竜君。その‥‥‥ありがとね」

「はあ?なんでお前に礼なんて言われるんだよ。礼を言わないといけないのは、俺の方だ」

「えっ?」

「喧嘩腰でお前が話しかけてくれたお陰で、俺はあの怪我から立ち直る事ができたんだからな」

「‥‥‥」

「草野?」

「やっぱり竜君だね。竜君は竜君だ」

「なんだよいきなり。変な奴だな」

「あのね‥‥‥竜君」

「うん?」



草野は俺の顔をジッと見つめて、なにかを言いたそうな顔をしていたが、俺はまたたわいない会話をするのだろうと、草野の表情に出た気持ちをスルーしてしまう。



「なんだよ草野?」

「あっ‥‥‥ううん、なんでもない。竜君♡またどこかで」

「ああ、草野もな」

「うん」



そして俺と草野は、高校を卒業後別々の大学へと進学した。

その後、草野が風の噂で結婚したのを俺は聞いた。



◇◇◇



高3の頃から俺の事が好きだったと言った、草野。けど、どう考えても俺の事を好きになる原因が思い当たらない。

俺が悩んでいると、草野はクスッと笑うと、



「本当に竜君は昔からかわらないね。鈍感と言うか鈍いと言うか」

「どうせ俺は鈍感ですよ!」

「ウフフ、まあ、竜君は言わないとわからないからね」

「はいはい、そうですね」

「だからね、私、言うわね。何故あなたの事が好きになったかを」



そして草野は言った。俺の事を好きになった訳を。






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