第48話 気持ち

草野と秋野先輩が別れたのは由奈が原因?

俺は草野の言っている事がわからなく、もう一度聞いた。



「草野、本当に草野と秋野先輩が別れた原因が由奈さんなのか?」

「‥‥‥間違いないわ。秋野先輩が『好きな人が出来た。相手は松塚由奈』と言っていたから」



草野は俺の目線から目を外すと、何故か下を向き話した。そして、由奈の名を口にすると俺の方を向いた。

俺はそんな草野が嘘を言っている様には思えなかった。

そもそも、草野と由奈の二人は面識がないのだから。



「由奈さん、草野の話は本当なのですか?」



俺の問いに由奈は直ぐに首を横に小さく振ると、真剣な表情をして、



「確かに大学に入って直ぐに、何人かの男性から告白をされたわ。けど、学内の男性とは誰とも付き合わなかったわ」



由奈の言葉に草野は由奈に鋭い目を向け、



「うそよ!あの人は、秋野先輩は貴女の名を口にしたのよ!」

「けど、あの時の私は学内の男性とは誰とも付き合ってないの」

「うそよ!うそよ!だってあの人が!」

「ごめんなさい‥」

「なんで‥なんで認めないのよ!」

「ごめんなさい‥」

「なんで、なんでよ!」



草野が自分を取り乱し、由奈に詰め寄ろうとする。



「草野!」

「止めないでよ!私はこの女に!この女に!」



俺はそんな取り乱した草野を止めた。だが草野は由奈にまだ詰め寄ろうとする。

草野は止めた俺から離れようと暴れ、草野の振った右手が、俺の左腕の古傷を叩く。

俺は一瞬、左腕に激痛が走り、右手を左腕に添えると、その場に座り込んでしまった。

が、その時俺はある事が頭に蘇る。



「りゅ、竜君‥‥‥」

「フミ君!大丈夫?」

「クッ!‥大丈夫‥です由奈さん。それより草野」

「竜君‥‥‥」

「草野、お前なにか隠しているだろう?」

「‥‥‥」

「別に話したくなければ話さなくていいよ。けどな、俺は由奈さんの言葉を信じるよ」

「フミ君」

「それにお前の言葉もな、草野」

「えっ?」

「思い出したんだよ!あの時の事を!秋野先輩の噂話を!」



そう!俺は思い出した。あの秋野先輩の良からぬ噂話を。

あれは草野と秋野先輩が付き合ってから半年ぐらいした時の事、俺は部室で着替えていた時、先輩達が話していた話を耳にした。



「秋野の奴羨ましいよな!あんな可愛い彼女がいるんだから」

「ああ、けどあいつ他に付き合ってる奴がいるみたいだぜ」

「本当かよ?」

「なんでも同じクラスの女らしい」

「じゃああいつ、二股してんのかよ」

「まあ、俺も聞いた話だから本当かどうか知らないがな」



俺はそんな話を耳にした。けど俺はそれを本当かどうか、秋野先輩に聞こうとはしなかった。あの時の草野とはそんなに面識がなく、あの噂話を他人事の様に聞いていたから。

けど今となっては、あの時に知っておくべきだった。聞いておくべきだった。秋野先輩に一言言っておくべきだった。



「なあ草野、お前、秋野先輩からフラれるのわかってたんじゃないのか?」

「!」

「だったら俺にも責任があるよな」

「えっ?なんで竜君が‥‥‥」

「俺は秋野先輩の噂話を知っていたからな。だから恨むなら俺を恨めよ!」

「竜君‥‥‥なんでそんなにその女をかばうの?」

「由奈さんはさ、人を騙す様な人ではないんだよ。なんて言ったら、う〜ん、あっ!人を幸せにする人、かな」

「人を幸せに?」

「そう!由奈さんと一緒にくらしてそれが良くわかったんだよ。この人は人に優しく出来る人だと」

「フミ君///」

「て、歯の浮く様なセリフ、俺にはにあわないな」



由奈は俺の言葉に恥ずかしそうに首を横に振ります。



「はあ〜、なんだか竜君を見てると自分が馬鹿におもえてくるわ」

「なんだよ、それじゃあ俺は馬鹿そのものか?」

「そうねー、馬鹿よね。だって私の気持ちも分からなかった馬鹿なんですからね」

「私の気持ち?」

「そうよ。気づかなかった?高3になって私は貴方、竜君を好きになった事を♡」

「ふえ?‥‥‥えええー!」



いきなりの草野からの告白に、俺戸惑いました。

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