第32話 木野 りんの過去

私、木野 りんは幼い頃からあまり体は丈夫な方ではなかった。

特に喘息はひどかった。

ちょっと歩いても、コンコンと咳が出る。

休んでいる時も、コンコン。

なにをするにも、コンコン。


病院の先生は大人なれば治るから心配ないと言われたけど、その治るまでは、私はかなり体がしんどかった。

だから幼い頃から喘息の薬はいつも持ち歩いていた。


そして、そんな私をいつのまにか友達の間では、『お狐りん』とあだ名がついていた。


そんな私が小学一年の時、公園で遊んでいた時の事。



「いやーい!お狐りん」

「狐じゃないもん(泣)」

「だっていつもコンコン言ってるじゃないかよ!」

「狐じゃないもん(泣)」

「♪コンコン、コンコン、お狐りん♪」

「狐じゃないもん(泣)」



公園で男の子達にからかわれていた。

そんな私をある人がかばってくれた。



「男の子が女の子を泣かしちゃダメだろ」

「なんだよ!このおっちゃんは!」

「おっちゃんはないな(笑)俺はまだ21だぜ

(笑)」

「俺達からみたらおっちゃんじゃん!」

「あ〜、そうだよな。じゃあ、くそガキ」

「誰がくそガキだよ!」

「あっ、悪い悪い。うんこガキの間違いな」

「なんだよこのおっちゃん、行こうみんな」

「「うん」」



その男の人は腰に手を置き男の子達を睨みつけると、男の子達はどこかへと行ってしまった。



「狐じゃないもん(泣)」

「そうだよな〜、けど狐さん、俺は可愛いとおもうけどな〜」

「狐さん、可愛いの?」

「ああ、可愛いよ」



するとその男の人は、両手を頭の上に上げると、狐の耳の真似をして「コンコン」と言ってきた。

私がそんな男の人の姿を見て、最初は変な人と見ていたが、まだ狐の真似をしている姿をを見て、私が「クスッ」と少し笑ったら、



「やっぱり、女の子は笑った顔のが可愛く見えるよ」

「笑った顔のが可愛いの?」

「うん、可愛く見えるよ」

「可愛く見えるんだ」



私はあのあと笑顔になったのを覚えている。

そして、男の人は私にジュースをおごってくれた。



「いいの?」

「ああ、どうぞ(笑顔)。ところで、君のその『コンコン』は治るのかい?」

「うん。お医者さんが大きくなれば治るて。けど。それまでこんな苦しいのが続くのかなて」

「そっか。治るんならそれまではその『コンコン』を我慢しないとね」

「けど‥‥苦しいものは苦しいよ」



私が沈んだように言うと、男の人は私に左腕を見せた。



「お兄さん、その傷」

「うん、この傷はもう治らないとお医者さんから言われた」

「治らないの?」

「うん。けど君のは治るとお医者さんから言われたんだろ」

「うん‥」

「だったらそれまでは頑張らないと、な」



その男の人は私の目線まで腰を落とすと、私に笑顔を見せて「必ず治るよ」と言ってくれた。

あの時の、男の人の笑顔はいまでも忘れられない。

喘息の方も、小学校を卒業する頃には、完治していた。




『あの時の男の人の笑顔、助けてくれた人に似ていたな‥』



私がそう思い込んでいると、真剣な表情をして柚葉が聞いてきた。


「りんご!あなたに王子様が現れたの⁈」

「えっ?王子様?」

「そうよ!あの子達が言っていたから」

「王子様‥‥‥そうかもしれないかも///」

「えっ?本当なんだ!で相手はどこの誰なの!」



柚葉は興味津々で、右手に持っていたメイド用のカチューシャを振って聞いてきた。



「どこかはわからないけど、名前なら」

「名前聞いたんだ。で、誰?」

「///‥‥‥竜宮橋 フミ‥さん///」

「えっ!」



柚葉の右手に持っていたカチューシャが床にポトリと落ちた。

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