第31話 りんごの王子様

木野 りんが買い出しに出かけてから、すでに5時間は過ぎていた。

心配する松塚 柚葉のクラスのみんな。



「それにしても、遅いよね」

「そうだよね」



何人かの生徒は、お互いにそう話す。

買い出しを頼んだ、欠 千明もまた心配そうな顔をしていた。

だが、千明のスマホには、担任の先生から「今から帰る」の連絡はあったので、他の生徒ほどは心配してはなかった。

その事は他の生徒にも話してはあるので、みんなは学祭の準備を進めていた。

ただ、やはり心配なものは心配だ。

松塚 柚葉も友人の木野 りんの帰りが遅いので心配していた。



「千明さんはああわ言ったけど‥‥‥りんご大丈夫なのかな(不安)」



柚葉が、不安そうな顔をしていると、横に居た、大平 沙也加が柚葉に声をかける。



「大丈夫よ。さっき先生から連絡があったんだし」

「大平さん‥‥‥うん‥でも、りんご大丈夫なのかな‥」

「大丈夫よ。だから学祭の準備を進めましょう」

「うん‥‥‥」



大平に言われ、学祭の準備を始める柚葉はりんごに何かあったかと不安で、手がなかなか進まなかった。


と、その時



「ガラガラガラ!みんな遅くなってすまないわね!」



いきなり教室のドアを開いて女性担任が入って来た。

それを見た教室内に居たみんなは安心すると



「先生、遅かったですね。何かあったんですか」



千明が先生の顔を見ると、安心したのか少し笑みをこぼして言ってくる。



「ちょっと渋滞していてね」

「えっ?先生〜嘘つくならもう少しましな嘘を言ってくださいよー。学校からモールまで車で10分ぐらいですよ」

「うん?まあ、寄り道をしなければね」

「寄り道?」

「そうよ」



そう言う先生の後に、一緒に買い出しに行った男子の「鈍チン」が、何やら重たそうな段ボールを二つ抱えて持ってきた。



「先生、これって」

「うん?あなたたちに差し入れ!」



持ってきたのはジュースが24本入った段ボール。それが2ケース。

まあ、それを持ってこれば確かに重いですよね。

鈍チンは教室に入るなり、へろへろと座りましたよ。

学祭の準備をしていた生徒は、今まで心配していた顔がどこかえぶっ飛んだかの様に、今度は喜んだ顔をしてます。



「やったー!」

「流石、先生!」

「ジュースは一人一つね。あとこれ」



大きなビニール袋いっぱいに入ったお菓子を出した。



「先生‥」

「なに?欠」

「このビニール袋‥まさかあそこの」

「えっ?そうだけど」

「て、ことはビールも‥」

「もち、買ってきたわよ」

「まさか、ここで飲む気ではないですよね?」

「まさか!飲まないわよ」

「じゃあ、これはなんですか?」

「えっ?あー、店員さんが間違えていれたのかな?」

「没収しますね」

「えーーー!」



千明、ビニール袋から500のビール缶を1本出すと、教壇の机の上にタン!と置いた。

それを物欲しそうに見る先生。

そんな千明と先生のやりとりを見ていたクラスのみんなは、クスクスと笑っていた。

ただ一人を除いて。



「りんご‥大丈夫?何かあったの?」



りんを見て、心配そうに聞いた柚葉。

そのりんは、なんだかまだ夢の中にいるような感じで柚葉に答える。



「柚葉‥‥‥えっ?‥何もないよ‥」

「けど、りんご様子おかしいよ?」

「そうかなぁ‥‥いつもと変わらないけど」

「う〜〜〜ん‥‥‥やっぱりおかしいよ!」

「‥‥‥おかしくないよ」

「おかしいよ!」

「おかしくないよ‥」

「おかしいって!」



そんな二人のやり取りを見ていた、りんと一緒に買い出しに行った女子が、



「あっ!りんごちゃんね、多分、王子様に会ったせいだよ」


「えっ?王子様?‥‥‥えっ?えええー!、りんごに王子様⁈」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る