第10話 微笑みアンデッド
スナウが目を覚ますと、両手両足が縄で縛られた状態で椅子に座らされていた。そして何故か女物の服に着替えさせられている。
「やあ、お寝坊さん」
「ここは……?」
「私の家。夜の町とか用水路なんかよりずっと安全だからね」
「ん……隠していた武器はどこにやりましたか?」
「全部水の底。胃の中にあったのもね」
レミィがスナウの上着を楽しそうに羽織ると、何故か指先を深く切った。レミィは襟や袖口の下に仕込まれた何枚もの剃刀の刃を見つけ、ウンザリした顔になる。
「いいや、これ着ない」
レミィはスナウの上着を床に捨てると、クローゼットの中から男物の上着を選びそれを羽織る。どうやらこの部屋は衣装部屋のようで、レミィは大きな姿見の前でいそいそと着替えを始めてしまった。やがて、軍服の様な服装になり、意気揚々とスナウに振り向く。
「さて? 君はなんの用があってこの世界に来たのかな?」
いつだったか男装が趣味と言っていたのは本当だったらしい。レミィは低い声を作ってスナウに問う。
「私が言うと思いますか?」
「ま、そう言うと思ってたよ」
レミィは腰に下げたホルスターから拳銃型の匣を素早く引き抜くと、スナウの両膝を一瞬で撃ち抜いた。スナウが知る鉛の弾丸を火薬で撃ち出す拳銃とは違い、魔石を分解し魔素の塊として再構築して魔素の力で撃ち出す匣は全く音がしない。
そのため防御などは間に合わず、スナウは自分の膝に穴が空けられた音と痛みに奥歯を噛み締めた。
「く……ぉぁ……」
「ねー、今ので吐いてくれないかな? 弱い者イジメみたいで嫌なんだよね」
スナウの傷口が塞がっていく様子を横目に、レミィは匣に魔石を充填する。
「あなたは私達レセ軍人をよく知っているようですから、なにをしても無駄ということもわかっているでしょう?」
「まあねー」
言いながら、レミィはスナウの腹に魔素弾を五発撃ち込んだ。
「ぁが……」
「そう言えば、あなたってまだ半人前だったよね。まだどの動物とも契約出来てないのに、よくこんなところに来れたね? あ、もしかして逃亡兵?」
「そんなわけないでしょう……強いて言うなら、運が悪かっただけですよ」
「確かにね。まあでも……」
レミィはスナウの心臓を寸分違わず撃ち抜く。
「うがぁ!」
「ん、んー? ここまでされてまだそんな反抗的な目が出来るなんて、流石はレセ人」
息を荒くしながらも冷静に生命力の糸で止血し心臓を治すスナウをレミィは気味悪がる。
「ねえ、訓練生時代に何回殺されたことあるの?」
「最初から数えてませんね」
「そう」
バチン! とスナウの眉間に向かって放たれた魔素弾が青い生命力の鎧に弾かれる。
「うわ、まだそんな元気が残ってたんだ」
レミィは匣に魔石を充填し側面のツマミを最大にまで回しながら歩み寄り、その銃口を生命力の鎧に守られるスナウの眉間に押し付けた。
「尋問は終わりですか?」
「雑草とレセ人は芽から摘めって、よく言うでしょ? 遺言があるなら聞いてあげるよ」
「その諺……あなたフェニエ人ですか」
一瞬だけレミィは動揺するが、すぐにそれを取り繕うようにさらに強く銃口を押し付ける。
「それが遺言?」
「いえ……」
眉間に銃口を突き付けられながら、スナウは不敵に笑う。
「人間の身体って、意外と隙間だらけなのはご存知ですか?」
「っ!?」
レミィは引き金を引きながら全力で後ろに飛び退る。魔素弾の最大威力を眉間にくらったスナウの首は大きく後ろに反り返り、鈍い音と共に折れた。
「折れただけ……!」
レミィは舌打ちしながら生命力の鎧を纒い、素早くスナウの背後にまわる。
たとえどれほど生命力が強く不死身のように思えても、脳を破壊されればドラゴンであろうと即死する。
「シッ!」
力強い蹴りでスナウの折れた首を捩じ切ろうとするが、首が再生しそれを避ける速度の方が早く金色の爪先が空を切る。
スナウの腹部を破って現れた四本の生命力の紐は、それぞれ一本ずつメスが括り付けられており、素早くスナウを縛る縄を断ち切った。
「生き残りでもフェニエ人は甘いですね。だから国を焼かれたんですよ」
「言うなあああああ!」
スナウは椅子を後ろに蹴り飛ばしながら前転し、四本のメスを身体の中にしまう。
「あなた達は! レセ人だけは死んでも殺す!」
レミィは椅子を砕きながら今まで以上に生命力を輝かせ、スナウに突っ込んでいく。スナウは生命力を纒うことなくそれを避け、床に転がる木片を手に取った。
「そんなことを言うと、『正義の盾』が泣きますよ?」
「口にするなあああああ!」
大振りだが、音よりも早く剣よりも鋭い金色の跳び蹴り。挑発的な笑みを浮かべていたスナウは青い鎧を纒う間もなく、上半身と下半身に容易く両断される。
「やった!」
「……感情的になり過ぎだ」
スナウは噴き出る血と共に床に落ちながら、傷口からはみ出た胃袋に木片を突き刺した。
「――――――――――――――――ッ!」
それは紛れもなく咆哮だった。
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