5章 Dパート 4

 ライダースーツに刻み込まれていた模様の光はすでに薄い。比例するように宗次郎の体力も底が近かった。いまも、ダゴンの一撃を食らってしまってなんとか立ち上がっている。食らってはいけない。しかし避けていたのでは相手に攻撃を与えられない。その結果がこの満身創痍の状況。ダゴンもダメージを負っているが比較にならない。


「だいぶ弱くなってしまったなぁ、正義のヒーロー」

 コブシに付着した血液を振って払う。

「こちらに来て私自身強くはなったが、強くなりすぎてしまったか。いや……お前が弱いのか」


 なにも言い返せない。弱いもなにも、宗次郎は戦いの術を知らない。脳裏に浮かんだ通りに変身をしてがむしゃらに闘ってきただけ。戦いのやり方なんてわからない。だからこのダメージ。目をつむって思い出す。自分の中にあるはずの正義のヒーローとやらの戦いの歴史を。そうじゃなければダゴンには勝てない。このままでは誰も守れない。


「あぁ……ダメか」

 記憶を探っても、一番古い記憶は路地裏で恵里佳と出会ったもの。それ以上過去の記憶は彼にはない。

「いや、やめた」

 目を開ける。

「無い記憶を探っても無駄だな」

 いつの間にか握っていた手を広げる。腕もだらんと下げる。

「なんだ? 諦めたか? 多少あっけなさは感じるがいいだろう。そろそろトドメを」


「勘違いするなよ」

 頭部を包み込んでいたヘルメットが消える。晒した素顔は物悲しい笑みをこぼしていた。

「オレがやめるって言ったのは、出し惜しみしないってことだよ」

 デジャブ。

 背すじを冷やしてダゴンは目を見開いた。

「お前……記憶が戻ったのか」


「はい? なんのことだ? 戻っていたらこんな苦労はしていなかったんじゃないかな」 宗次郎の返答に笑うしかなかった。記憶は戻っていないのにあの時と、同じ行動をしている。

「いいだろう。こい!お前の最期のフォームを見せてもらおうか!」


「さっき思い出したばかりのオレの記憶を、オレより先に言わないでほしいな!」

 コブシに赤い炎が灯る。炎はすぐに宗次郎の全身を包み込んでさらに燃え上がる。思い出したのはこのフォームだけじゃない。このフォームを使うことで自分がどうなっていまうかも同時に思い出している。それでも構わない。


 コブシを強く握りしめて大地を蹴りあげる。

「はぁぁ!」

 気合いとともにすべての力を込めたコブシを振り上げて、ダゴンへと突き出した。ダゴンもそれに答える。

 コブシ同士が衝突して生まれた光がすべてを包み込む。不思議と眩しさを感じなかった。だから宗次郎は

「ごめんなさい恵梨香さん。ありがとう。うん、さよなら」

 冷静に恵里佳へと別れの言葉を口にした。

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