5章 Dパート 3

 絶え間なく地面が揺れている。


 またひとつ、ビルが巨大ロボットと巨大怪人の衝撃に耐えられずに倒れていく。

 ここにいては危ないと、今はかすかになってしまった彼女の理性が働く。けれども思いはそうでも体がついてこない。座り込んだまま恵里佳はどこを見るでもなく、壁を見つめていた。


「……宗次郎くん」

 あの時、宗次郎がなにに変身したのか彼女にはわからない。でも止めるべきだった。あのまま戦いに行かせちゃいけなかった。でも止められなかった。それまで持っていたものがすべて、彼女の手のひらからこぼれていく。

「私にはもう……なにもないのか……」

 涙もこぼれていく。

「私はこんなにも空っぽな……人間だったのか……」

 すぐ近くのビルに怪人が激突してかけらを当たりにばら撒いた。恵里佳のすぐ近くにもそれは落下して、アスファルトの地面に突き刺さった。ほんのちょっとずれていれば別の誰かに刺さっていたかもしれない。それでもまだ彼女は動こうとはしない。


 ふと、物音が彼女の耳に入った。いや、それはおかしかった。ロボットと怪人が戦い続けるその現場で物音が聞こえる余地がない。真横で音が発生したのならともかく、音が聞こえてきたのは少し離れた路地の曲がり角付近。


 恵里佳は音に気がついて、なにも考えないままそちらを見た。誰かが、路地を曲がって去っていく。見えたのは体の半身ほど。すぐに消えていなくなった人影。

「いまのは……」

 幻かもしれない。ここに何故いたのか。そんなことはどうでも良かった。

「宗次郎くん!」

 恵里佳の瞳に光が戻る。立ち上がって、誰かが去っていった方へと走りだす。走りだす、走りだす。直前まで座っていた場所に大きな建物の破片が落ちてきたことも気づかないまま、走りだす。


 速度よりも力。

 全身の模様を黒く変色させた宗次郎の一撃がダゴンのコブシを弾く。がら空きになった土手っ腹へと今度は宗次郎がコブシを伸ばすが、速度が足りずに簡単に避けられてしまう。そこに、緑色へと変化した模様とともにダゴンの背後へと回りこむ。

 読まれていた。

 逃げる間など与えられない。コブシを受けて宗次郎の体が吹き飛ばされる。

 地面を何度も転がってようやく動きが止まって、すぐに立ち上がったその眼前。ダゴンに接近を許していた。


 満身創痍のロボットはそれでも立ち続ける。

 通常3人で動かすロボットをいまは彼女一人だけで動かす。意識を集中させてまるで自分の体のように動かす。

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