4章 Dパート 3
人が多く去っていったとはいえ、まだこの街には人が多い。街中心部ともなればなおさらのこと。
だから、倒れている人々の数も多い。
人が倒れ、その人を助けようとしていた人も倒れ。信号待ちをしていた車はエンジンを掛けたまま動きを止めて、走行中だった車が待機列の後方から突っ込んでいる。まだ、立っていた住人がいた。口元にハンカチを当てて、周りの光景に恐怖の顔色を浮かべながら走り続けて、意識を失って倒れる。
映像が切り替わった。そこで宗次郎は見るのをやめて自室へと戻る。
つけっぱなしにされたテレビでは再び映像が街中心部の光景になっていた。
「おはよう諸君。街の様子を見て楽しんでくれたかな?」
倒れていたカメラクルー一行が持っていたカメラを片手に、初老の男性は優雅に静かな街の中を歩く。今は道路の真ん中を歩いていても誰にもなにも言われない。だからではないが、彼の足取りは非情に軽かった。
「できればこの光景をずっと見ていてもらいたいが、残念ながら私も客を待たせているのでな。そろそろ待ち合わせ場所に向かわなければならないのだよ」
人の高さの目線で写っていた街の光景が変わる。
ふわりと跳躍したダゴンはそのまま近くのビルの屋上へと降り立つ。
数度の跳躍の後にようやく止まった。
「おまたせしたな。この街のヒーローよ」
カメラを向けるその先に巨大ロボットが立っていた。
それはこの街を何度も何度も救ってきたヒーロー。絶対的な信頼を寄せられなければならない、不屈のヒーロー。
「いい姿になったじゃないか。私としてはそっちのほうが格好がいいと、思うぞ」
倒れてはならないヒーローが、倒れないようにと必死にビルを杖代わりにしていた。
『どこに行ったかと思ったら! あたしたちがかっこよく勝利する場面を写してくれるのかな?』
コックピットの中で、レッドはまだまだ余裕の様子。声だけは、まだ。
「この状況でもこれだけ戦えるのはさすがはヒーローだな。普通の人間とは違うようだ」
杖代わりにしていたビルが崩れ落ちた。ロボットは自分の足だけで立っていなければならず、フラフラになりながら重心を安定させる。ロボット自体の損傷はまだ微々たるもの。しかしそれを動かすパイロットたちがギリギリな状況に陥っていた。全身を重たく感じてめまいがする。意識はとぎれとぎれで気合を入れ続けなければ、すぐにでも意識が持っていかれてしまう。その状況でいつものように闘いをすることは困難。今もまた、闘っていた巨大怪人の一撃を避けられずに、アスファルトの地面へと倒れていった。
コックピットの中を襲う衝撃。しかし痛みによって一時的にでも意識がしっかりと保たれる。レッドたち3人は、お互い目を合わせて頷きあって、機体を跳躍させた。大剣を握りしめ、跳躍した高さから怪人へと剣を振り下ろした。ロボットの動力エネルギーをかなり使う技だが、当たりさえすれば倒せるまさに必殺技。
落下の速度を足して振り下ろされた初撃を怪人は避ける。しかし機体を回転させて横に薙ぐように剣を動かす。これも怪人はぎりぎりのところで回避。一方のロボットは回転の余波で体勢を崩す。そこに怪人が襲いかかるが誘いこむまでが一連の流れ。
体勢を回復させて剣をしっかりと握り、襲いかかる怪人にカウンターを仕掛けた。相手はこっちに向かって来ている以上、そう簡単には回避行動に移れない。ロボットの剣が怪人を捉えて
「申し訳ないなぁ。そのロボットのデータは充分すぎるほどに取らせてもらっているのだよ」
3度目の正直はなかった。またしても剣先は空を切るだけに。
「こちらもね。ただ負けてきたわけじゃ、無いんだよ」
怪人が襲い掛かる。
「おまたせしたな」
ビルの屋上に建ったまま、ダゴンはカメラを構えて目の前の光景を映し出す。
「この映像を目に焼き付けておくんだな」
誰もが見たくはなかった光景を映し出す。
「君らの希望だよ。いや、希望だったものだよ」
いくつかのビルを巻き添えに
「ここに倒れているのが、希望だったものだ」
巨大ロボットは倒れていた。
出かけるための準備は整った。
この街でなにか異変が起こっている。
「だめだ……まだつながらない!」
この家の同居人の恵梨香の携帯電話へとかけてみるが、何度かけても呼び出し音だけがずっと続いている。
「オレが倒れないうちに探さないと。もしかしたらってことがあるかもしれない」
玄関で靴を履いて家を出る。鍵を閉めて階段を下りながらもう一度電話をかけてみる。
「まったくあの人はこんな時にどこに行ったのさ。せめてどこに行くか書き置きでも残しておいてくれれば……さ」
やはりつながらないので携帯電話をしまって、駐輪所に置いてある自転車の鍵を解除して引っ張りだす。
「行く可能性があるのは……学校に図書館にショッピングモール……あとは……」
自転車にまたがってペダルに足を置く。
「とにかく行きそうな場所に行ってみよう。まずは図書館。それから学校」
足に力を入れてペダルを漕ぎだす。
「早く恵里佳さんを見つけてこの街から出ないと!」
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