4章 Dパート 4
目を覆いたくなる光景。自転車で走り続けるその先々で、人が倒れていた。
倒れた人を助けようとして倒れる人。まだ中にはなんとか動ける人もいて、でもその人も宗次郎の視界の中で意識を失って倒れていく。
なにもできなかった。
ペダルを漕ぐ足を止めて警察に電話をしても繋がらない。警察だけじゃない。どこに電話をしても結果は同じ。かと言って、彼一人ではなにもできなかった。
何度も『ごめんなさい』と心のなかで思いながらペダルを漕いでいく。
胸が締め付けられながら辿り着いた図書館。自転車から降りて施設の中に入って行くと、そこは机や床に倒れる人の姿。見ていて気分がいいものではなかった。顔をしかめながらその中に恵里佳がいないかと確認していく。
そこには恵梨香はいなかった。
図書館の中にいた時も外に出た今も、宗次郎は一言も口にしなかった。なにもしゃべる気になれなくなっていた。再び自転車に乗って漕ぎだす、そのペダルも心なしか重たく感じた。
無言で走り続ける。次に向かう場所は通っていた学校。先日で休学になったものの、後処理などで教師はまだ校内に残っていた。開放された校庭で遊ぶ元生徒も多い。恵梨香も数回、用事のために行っていたのを思い出して少しだけ、ここにいるんじゃないかという希望が湧き上がってペダルを軽く感じる。
校門のところに自転車を置いて、その位置でツバを飲み込む。
校庭からでも見てわかるぐらいにあちこちに人が倒れていた。中には元クラスメイトの姿もある。近づいて声をかけるが、呼吸は続けているものの反応はない。
「誰か、だれかいますか!」
声を張り上げてみるが、反応はなかった。
首を振って校舎で入り口の靴箱まで進んで、恵里佳の靴箱をチェックする。もし構内にいるのならここに靴が入っているはず。結果は
「ここでもないのか」
靴は入っていなかった。
この結果に安堵していいのか悪いのかわからない。
見つかってくれれば彼女を担いででもこの街から離れられる。
見つからないのなら、もしかしたら街の外にとっくに避難している可能性もある。
まだどちらの可能性も秘めているからこそ、気持ちに整理がつかない。
「次は……モールに行ってみよう」
止めてあった自転車まで戻ってまたがったところで、地面が大きく揺れた。
「おっ、っと……っと!」
バランスが保てなくなって自転車が転がり、寸前のところで自転車から降りる宗次郎。
「地震? いや……これは……」
見上げるその先は街の一角。中心部からは外れたその一角はこの街に住む人々には特に知られた場所。
「そういえば怪人が出たとか言っていたような……」
よく怪人が現れる一角だった。
「まさかこれも……怪人の仕業なのか」
そうだとするならば近づかない方がいい。
それならば離れているショピングモールへ行こう。
そう決めて倒れてしまった自転車を起こしてソレにまたがって、怪人が現れる一角に背中を向けて漕ぎ出そうとして、動きを止めた。
風が吹いて背後の自転車が倒れる。宗次郎は気にしないままに、空を見上げて目をつむった。風を体に受ける。なにかを受信した。
それは、勘というものでは表せきれないほどにあやふやで、でも宗次郎はそれに従うことにした。理由を求められても言葉にはできにくい。あえて言うのなら、勘を信じようと、勘が言っていたから。
「よし、行こう」
倒れた自転車を起こしてまたがる。
「向かうはあの場所だ!」
ペダルに足をかけておもいっきり漕ぎ始める。
その先では怪人が暴れていた。
巨大ロボットがビルを巻き込んで倒れていく。そこに追撃をかける巨大怪人。寸前のところで立ち上がったロボットが攻撃を避け、怪人へと殴りかかった。鈍い音がして怪人がよろめく。殴ったはずのロボットもよろめいていた。
「まずいぞレッド。今ので腕の耐久が限界を超えている。
いつ動かなくなってもおかしくはない」
ロボットのコックピットの中で3人は必死に戦いを続けていた。
ビルごと倒されてからトドメを刺される直前でなんとかそれを回避。そこから復活を遂げて逆転劇に、とまでは中々いかなかった。
3人とも他の人のように倒れるまでには至っていない。どうしてなのか、本部との通信が途絶えたいま答えはわからない。このロボットを動かせる能力がいい方向に働いているのかもしれないと、勝手に解釈していた。
それでも状況が好転するわけではない。ほぼ防戦一方。先ほど久しぶりにこちらから攻撃を仕掛けられたが、相手に与えたダメージよりも自分たちのダメージのほうが圧倒的に上。
それでも。
「限界ねぇ。いいじゃない」
レッドはメットの中で笑っていた。
「限界くらい超えられないと、街も守れないって言うなら」
ロボットを動かすための水晶球に手を当てて
「いくらでも超えてみせるわよ!
こっちはね! この闘いが終わったら伝えなくちゃいけないことがあるんだからね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます