4章 Dパート そして彼はその言葉を口にする

4章 Dパート 1 CM明け

「ダゴン! 貴様の悪巧みもここまでだ! 覚悟をしろ!」

 仮面をつけたヒーローはビシッと、高台に立つ初老の男性を指さしていた。


 ついにこの時が来た。

 ヒーローは長い間この初老の男性と、彼が率いる怪人軍団との闘いを繰り広げていた。街の平和を、ひいてはこの世界を守るため、一人孤独に戦い続けていた。

「ついに追い詰めたぞ! この基地とともに滅びるんだ!」

 スカーフを翻し、指を指していた拳を強く握りしめる。確かに初老の男性は追い詰められていた。ここは彼らの基地。そして主戦力だった怪人たちはここに追い詰められるまでに倒されている。もはや男性を守る怪人はいない。だが、表情までは追い詰められていなかった。

「いいや違うぞ」

 老人は白衣のポケットから一本の注射器を取り出して、自分の首筋に当てた。

「ここは、お前の墓場だ!」

 注射器の針を首筋に差し込んで中の液体を注入する。


「これはな! 今までお前に倒されてきた怪人たちの力と経験が詰め込まれている! どういうことかわかるか! お前のすべてが私にはもう、通用しないということだ!」

 男性の体が内部から膨張を始める。衣服が、白衣が破けて筋肉質の体がさらに膨れ上がる。もともと小柄だった男性の体が今ではヒーローのおよそ3倍。腕がまるで丸太のようである。

「死ね! 私の邪魔をする愚か者よ!」

 丸太のような腕がヒーローへと襲いかかった。これを受けては危険と下がるヒーロー。その眼前でアスファルトの床が陥没した。

「ひぇ~。危ないなぁ。けど、力だけで速度は」

「あるぞ」


 いつの間にか男性が接近して、ヒーローができたことは両腕を体の前面でクロスさせたことだけ。前方からのしかかってきた一撃はヒーローの意識を奪うのには十分すぎるほどの重さで、続いて襲いかかるこの基地をぶちぬいて外へと吹き飛ばされる衝撃で意識が戻る。同時に全身を痛みが襲い掛かる。

 飛ばされた先には今は更地になっている砕石場跡地。広々とした空間に着地とは名ばかりに転がり落ちる。

 手をついて体を起こし、小規模の地震を起こして着地したダゴンを見上げる。

「まさかここまで力を得ることができるとは私も驚きだ。いや、お前を過大評価しすぎていたのかもしれないな。拍子抜けなのかもしれん」

「そいつはどうも。過大に評価したままでもオレは構わないよ」

 左手を前に突き出して右手を脇まで引き寄せる。呼吸を整える。全身が悲鳴をあげていた。先ほどの一撃だけで劣勢にまで落されていた。まだ動ける。無理をすれば動ける。


「いや、やめた」

 ふと、ヒーローは力を抜いて構えを解いた。

「負けを認めるのか? この世界を守ろうとしていたヒーローらしからぬ言動だな」

「おいおい勘違いをするなよ」

 ヒーローの右手に炎が宿る。右手の炎はすぐに全身を包み込んだ。

「オレがやめるのは、出し惜しみするってことをだよ」

 赤い炎がヒーローを包み込んで燃え上がっている。

「これがオレの最期のフォームだ。あんたも全力でかかってこいよ」

 指先で手招きする。ダゴンの口元が釣り上がる。

「なるほど。玉砕覚悟か。それでこそヒーローだ。いいだろう。私もすべての力を使って相手をしてやろう」


 双方、拳を強く握りしめる。同時に大地を蹴りあげる。

 双方が相手へと拳を突きつける。二人の拳がぶつかり合った。

 光が全てを包み込む。意識が飛ばされる。

 光はやがて収まりを見せた。

 ヒーローは、大雨の空の下、傘もささずに立ち尽くしていた。

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