3章 Cパート 8
たったいま倒したはずの怪人がふたたび立ち上がる。
「レッド後ろ!」
最初に気がついたブルーがレッドに声をかけ、機体を振り向かせようとするがそれよりも先に衝撃が襲いかかってくる。地面を転がされるロボット。
「だ、大丈夫ふたりとも!」
頭を押さえながら立ち上がるレッド。しかし、声をかけた2人のうちの一人が立ち上がろうともせずに、倒れたままだった。
「「ブルー!」」
二人が一人の少女の名を叫ぶ。青いスーツを身にまとった少女は横たわったまま立ち上がろうとはしてこない。
「ちょっと凜花大丈夫!」
この姿でいる時の名前ではなく本名を叫んでしまうが、それに気がつかないほどにレッドは慌てていた。しゃがみこんで震える指先でブルーに触れる。かすかに反応があった。
「メット、外すね」
本人からの承諾はなかったが頭部を包み込んでいるメット部分を外す。するとそこには青いスーツを着込んだ凜花の姿。顕になった頭部は赤く染まり始めていた。
「いまので打ったか……」
ちらりと横目で少女の姿を見るイエロー。今は彼一人だけでこの機体を動かし、巨大怪人から距離を取りつつ牽制をしている。
「レッド! どこを打ったかわからないのならヘタに動かすな」
「でも、血が出ているよ」
いつもの彼女とは思えないほどの弱々しい声。
「血が出ているからだ。出血するほど頭を打ったのなら動かすのは危険だ」
とは言ったが現在このロボットも動いているわけで、コックピット内も振動は収まらない。
「まいったな、これは……」
相手の巨大ロボットが、先ほどの一撃のあとから動きが鈍くなっている。そのことはビルの屋上で観戦をしている恵里佳も理解している。なにかがあった。アレを動かしている操縦者になにかがあった。でも。
「それでも私は止まってはいけない」
スーツの胸のあたりを掴む。
「たとえこの勝敗の先に悲劇があったとしても、私は止まってはいけない」
唇のはしを噛む。
「非情になって、いかなければならないんだ。私はこの組織の首領なのだから」
胸から手を離してマントを翻す。
「私は、父の無念を晴らすんだ」
空を見上げる。真上に輝く太陽。
「それを邪魔するというのならかかってくるんだな!」
太陽を背に落下する機影がひとつ。いつしか邪魔をした新たな敵が、シャチ型のロボットが空より降ってきた。まるでそれは巨大な弾丸。速度を緩めることなく巨大怪人へと狙いを定める。
玉砕に近い攻撃方法だったがシャチ型のロボットを動かす操縦者にはそんなつもりはない。金のスーツを身にまとい、スーツの中で笑ってさえいる。直撃を受ければどうなるかわからない怪人ではない。ビルを犠牲に跳躍をして落下地点から逃れようとするが、気がつけばシャチの姿は目の前まで来ていた。直前で進路を変えたシャチの機体が怪人の体を貫く。空中で爆発する怪人。シャチは勢いそのままに去っていく。
恵梨香は唖然としていた。あの速度からの急激な方向転換にも驚いていたが、あんな攻撃をしてくるとは思いもしなかったからだ。
「まぁいいだろう。どうやら手傷は負わせられたようだからな……」
爆発現場に背を向ける間際、心配そうに巨大ロボットへ振り向いた。次に、この場から立ち去ろうとして地上の様子を眺めた時に、一人の少年の姿を見つける。
この手の戦いになるとからなず現れた野次馬は、ここ数週間でほとんどがいなくなっている。警察は今も同様に立ち入り禁止区域を指定しているが、その指示が意味をなさなくなってきているほどに人がいなくなっている。それでも宗次郎は現場に足を運んでいた。
いまはもう会わないと決めた女性に出会うために。路地裏を歩きまわって誰かを探す宗次郎の姿を、ビルの屋上を渡り歩きながら眺める。表情までは分からない。けどもずっとずっと歩き回っている姿を見ているだけで、その必死さが伝わってきてついには目をそらしてしまう。
もう会うことはないから来なくていい。そう伝えたいが伝えるために会ってしまうのもやめようと、なにも言わない。
この姿では。
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