3章 Cパート 7

 怪人の襲来に街は騒がしい。すでに巨大ロボットが駆けつけて怪人と睨み合っているが、戦況は怪人側に傾いていた。今まで以上に力の増した怪人。さらにはロボット側の攻撃が片っ端から弾かれてしまう。


「もう一度仕掛けるよ!」

「けどまた防がれるんじゃないかなぁ」

「それでもやるしかない!」

 声を張り上げすぎてレッドの喉が限界を迎えてきていた。力強く大剣を握って天へと飛翔。空中に一回転した後に剣を振り下ろしながらの突撃。いつもならばそれで怪人の体は真っ二つになっていた。それなのに今日は違う。同じような形の大剣に防がれるどころかそのまま力負けして弾かれてしまう。

「きゃぁ!」

 地面を転がされる振動がコックピットにも伝わってくる。水晶球を抱えるようにして耐えて、機体をすぐに立ち上がらせる。

「大丈夫二人共!」

「もちろん!」

「あぁ、大丈夫だ。しかしどうするレッド。こちらの攻撃が防がれる以上、アイツを倒す手段がないぞ」

「そんなもの気合いで!」

「どうにかなっていたらもう倒せていると思うんだよね―」

 ブルーのツッコミに口を閉ざす。


 試せることは全て試した。そしてすべてが防がれた。こちらは満身創痍に近く、相手は軽傷。このままではこちらが。浮かんでくる単語を頭を振って振り払うレッド。そこに、本部からの通信が舞い込んできた。

『お待たせみんな。いまそっちに新しいメンバーと新しい機体を送ったわ』

 それは予想もしていなかった通信だった。

「新しいメンバー?」

「そんなのがいたの?」

『えぇ、こんな事もあろうかと秘密裏に用意をしていたの』

 コックピット内のレーダーに近づいてくるものが映る。大きさはこの巨大ロボットへと合体する前の個々のロボットよりも大きく、姿は空を飛ぶシャチ。

『さぁ反撃の時よ!』


 着地というよりは落下と表現した方がいい。

 地面を大きくバウンドしてシャチの巨大ロボットは怪人へと襲いかかった。体当たり、からの尾びれでの一撃。態勢を立て直す怪人の目の前で、背びれからシャチの体が左右に割れて別の姿がお目見えになる。レッドたちが乗っている巨大ロボットとほぼ同じ大きさのロボットが大地に降臨した。


 シャチの鼻先だった部分がハンマーへと変化して、尾びれが分離して回転を始める。怪人の攻撃を尾びれで防いでハンマーを叩き込む。怪人が押されてきた。一歩また一歩を背後へと下がっていく。トドメとばかりに大きくハンマーを振り上げて、怪人へと振り下ろす。倒したと、ただ眺めていたレッドたちもそう思っていた。その眼前でハンマーが受け止められて尾びれが叩き落とされて、迫る怪人の一撃の前に防ぐ手段がない。ロボットはなすすべもなく怪人の一撃を受けるしかなかった。

 人型へと変形をした元シャチ型の巨大ロボットが、怪人の一撃を受けて大地へと沈む。操縦をしていたパイロットは全身を強く打ち倒れるものの、最後の力を振り絞って水晶へと触れて、操縦をオートへと変更した。

 シャチの体が2つに分かれて巨大ロボットの腰に抱きつく形でまとわりついて、背中で背びれの部分が再び合体する。大きな尻尾を生やした形になり、この尻尾が激しくあらぶり伸びて巨大怪人へと襲いかかる。時には巨大ロボットを跳躍させるために大地を叩きつけ、時には予測不可能な方向から怪人へと攻撃を仕掛ける尻尾の存在に、怪人はそれまでの猛攻撃を繰り出せなくなっていた。気がつけば反撃を許し、尻尾の攻撃を防ごうとするとロボット本体の一撃を受けてしまう。大きな一撃を喰らい後退する怪人。そこに、尻尾で跳躍をして大剣を振りかざすロボット。それならば防ぐことができると待ち受ける怪人だったが、大剣よりも先に尻尾の一撃が怪人を襲い、体勢を崩したところに大剣が振り下ろされた。ビチビチと跳ねる尻尾。倒れゆく怪人へと背を向けるロボット。

 背後で、怪人が爆発した。


 辛くも勝利。

 勝ったことには変わりはない。しかし、彼女たちに求められている勝利ではなかった。

 赤城風の顔は晴れない。


「仕方がないじゃない! 相手が……強くなってきているんだから!」

 学校の中庭のベンチに腰を下ろし、手の中のサンドイッチをワイルドにかぶりつく。

「あたしたちだってもっと早く、もっと被害がないうちに倒したいとそう思っているよ。でもさ……仕方がないじゃない……」

 顔を歪めながらもう一度かぶりつく。学校の中庭といえば昼休みには人気のスペースで、いつもなら早く来ないとベンチはおろか座るスペースが無くなるほど。しかし今日は数えるほどしか生徒がいない。

「あーあ。今までの倍以上力が出るようにあの機体、誰か改造してくれないかなぁ」

「それは無理だよ」

 口を挟んでくるのは嶄。彼一人だけベンチには座らずに、立ったままアンパンにかじりついている。

「現状であの機体は100%の力を出している。先日の彼の機体との合体によるパワーアップが限界だ」

 アンパンにかじりついて

「そう言っていた」

「って言ったてさー。怪人強くなる一方じゃない。このままじゃ、さ……」


 中庭を見渡す。いつもなら人であふれている中庭。いつもじゃない中庭。

「さすがにわたしも笑っていられないほど、驚くよね、これはさ」

 風の隣に座る凜花は、沈む表情とは裏腹に分厚いカツサンドを頬張って、咀嚼して飲み込む。

「私のクラスなんてもう半分になっちゃっているんだよね。風のところはどうなの?」

「あたしのところ? うん……まぁ同じくらいかな。結構引っ越しちゃったかな」

 この街を守るロボットが快勝ではなく辛勝を続けるということは怪人の勝手を許すということ。すなわち街の被害が大きくなっていく。それまでは被害があってもごく一部のみで、だからこそ修理もその一部に集中できるので素早く街が復興していた。しかし今はその被害箇所も日に日に大きくなっていく。


 先日の一件が大きな引き金になってしまった。もしかしたらこのまま行くとロボットが怪人に負けてしまうんじゃないか。そうなったらこの街は怪人によって破壊されてしまう。そうなる前にこの街から逃げなくては。

 いくらこの街に住むことで優遇されようとも、命には変えられない。

「あーあ。もっと強くならないとなぁ」

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