3章 Cパート 5
モールの中の客の流れを宗次郎は眺めていた。
家族連れ、独りであるいはカップルで、モールにはいろいろなお客が訪れていた。いやそれはあくまで宗次郎の視点で、本当は家族でもカップルでも無いのかもしれない。どう見られるかは人それぞれ。はたして自分はどう見られているだろうか。
いまは彼も一人である。少し離れた場所にあるショップでは少女二人がお互いの下着を選んでいる。だから今は宗次郎一人でいるしかない。
「この場所も……怪人が現れたらパニックになるんだろうなぁ」
「そういう不吉なことは口にするものではないぞ」
背後から声がかけられた。振り返ってみると恵里佳が一人で立っている。
「買い物はもう終わったの? って、赤城さんは?」
「彼女は……もうちょっと時間がかかるそうだ。気に入ったものは見つかったようだが、どの色がいいか選びきれないとか……」
宗次郎の横を通りすぎて通路の端のソファに腰を下ろす。すぐに宗次郎も隣りに座ってくる。
「なぁ宗次郎くん」
天井へと向いて
「キミはこの街が好きか?」
「好きもなにも……オレはこの街しか知らないからねぇ」
「それでもこの街が好きかどうかは言えるだろう?」
「うん……だったら好き、だよ」
「そうか……私もだ」
視線を下ろして正面から宗次郎を見つめる。見つめて、見つめられている。
赤城風からも。
「話の途中から聞いていたら、なにこの二人こんなところで告白しあっているんだろうなって、そう思ってもおかしくないよね」
紙袋を持った風が呆れたようにため息をついていた。
「赤城さんだってこの街は好きなんだろ?」
「そりゃあねぇ。この街を守るために闘っているわけですから、大好きでございますよー」
なぜだろうか、そう言い放って先を進み出す風の機嫌が悪くなっているような、そんな気が恵里佳にはしていた。
次の店に着くころには元通りの機嫌になっていた。
他にもいくつも店を見て回り、ちょうどお昼の時刻になったので3人でモール屋上のレストランへと足を向ける。
「ごめんごめん。なんとか開いてるロッカー見つかってよかったよ」
長時間見て回ることは事前でわかっていたので、買い物をするにしてもあまり荷物にならない程度にしようと話していたにもかかわらず、特に風が気に入ったものがあっては買い物を続け、気がつけば荷物が増えていた。
それらをロッカーに収めて合流する風。
その途中で彼女とすれ違った少女が振り返ってくる。
「あっ、会長。それに赤城さん!」
二人の姿を見つけてつい声に出して、それから緊張したように
「こ、こんにちわです!」
挨拶をしてくる少女。風は判らなかったが恵梨香はすぐにそれが
「1年生の子、だったよね。こんにちわ。ここには買い物で?」
「は、はい! 友達と待ち合わせをしてまして」
ガチガチに緊張している。
「そう、じゃあここでアナタを止めておくわけにはいかないわね。楽しんできてね」
「は、はい!」
元気よく返事をして何度も頭を下げて、ようやく背中を向けて走っていった。少女の姿が人の波の中に消えたころ
「よく彼女がうちの学校の、しかも1年生だってわかったね」
「もちろんよ。生徒会長だもの。もっとも今は一時的に職を降ろされている一般の生徒だけど。
さぁ私たちも行きましょう。遅れてしまうと上が混雑してしまう」
数歩進んで、宗次郎も後をついていって、恵梨香が足を止めた。
「あの、さ」
振り返る恵梨香の視線の先で風は恥ずかしそうに視線を逸らして
「亜久野さんって、ほんとうに良い生徒会長だよね」
いきなりの言葉にさすがに慌てる恵里佳。
「えっ、あっ、ありがとう」
少し頬が赤い。
「学校のみんなのことをちゃんと考えているしさ、さっきだって1年生の子のこともちゃんと覚えていたし。
だからみんなからも慕われている」
そう口にする風の顔も赤い。
「だからってわけじゃないんだけど、あたしもさ」
そこから続くはずだった言葉が、モール全体に響き渡る警告音でかき消された。
「これは……まさか!」
バッグにしまっていた携帯電話が負けじと鳴り響く。
取り出して耳に当てて
「こちら赤城です!」
警戒音のあとに続いてモールの店員が店内放送で避難を告げた。
「まさかこの近くに怪人が出たってこと。ど、どうしよう、逃げなくちゃ」
慌てる宗次郎の横で恵里佳は、辺りの誰よりも動揺を顔に浮かべていた。
「どうして……そんな……!」
自分はここにいる。なにも指示は出していない。それなのに怪人が現れた。
「一体なんで……!」
いますぐに基地へと走りだして問い詰めたかった。けれどもそれが許される状況ではない。
深呼吸を繰り返す。
落ち着きを取り戻して
「だいじょうぶよ宗次郎くん。まずは落ち着きましょう。
いま出口に向かってもすぐに出られるような状況ではないと思うわ。
で、状況はどうなっているの、赤城さん?」
視線の先、ちょうど携帯電話を仕舞っている風は聞かされた状況を脳内で復唱して
「怪人が現れたのはいつもとは違ってこの辺り。といってもまだ距離はあるし、こっちに向かってきているわけじゃないみたい」
話している途中でもう一度着信。ただし今度のはメールだった。
急いでメールを開く。
「了解っと」
メールに添付されていたマップを読み込んで、確認をしてから携帯電話をしまう。
「行くのでしょう」
怪人が現れたのなら赤城風は行かなくてはならない。
しかし意外にも彼女は首を振った。
「どうもさ、あたし以外の2人だけでもなんとかなっているみたいだから、今のところはこっちの避難誘導をしてくれってさ」
「なるほど。じゃああれをどうにかしてくれるわけか」
視線の先、そこには我先にと階段を降りようとする人の波が見える。お互いがお互い譲ろうとしない結果、詰まってしまって誰も進めない状況に。
「このままだといらないところで怪我人が出そうだからね」
隣をチラッと見て
「手伝ってくれると嬉しいかなぁって……」
「もちろんだ」即答だった。
「もとよりアレを解消しないと私たちもここを出られないからな。
宗次郎くんも手伝ってくれるか」
「は、はい!」
団子状態になっている人の波へと3人は歩き出した。
「はーい! みんな注目ー!」
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