3章 Cパート それぞれの葛藤
3章 Cパート 1 CM明け
「2人とも大丈夫? いけるようならここで、いくよ!」
巨大ロボットの操縦席の空間で、レッドは水晶球に手を当てながらあと2人に言葉を送る。長い戦いで疲れているのは彼女自身よくわかっている。自分も、こうして声を張り上げていないと意識が飛びそうだった。
かれこれ1時間は闘いを続けている。相手は一体の巨大怪人。体のほとんどがスライムで構成されていて、何度攻撃を加えてもその結果、体が散らばったとしても復活をする。
『大丈夫3人共! 必ずどこかに体を形成させるためのコアがあるはずよ。
そこを狙って!』
本部からの通信に
「了解!」
応答するものの表情は晴れていない。
それはわかっていた。30分も前に同じことを言われていた。それ以来いまも巨大ロボットが持っている大剣で、どれだけ細切れにしても必ず怪人は復活をする。スライム状の部分以外のところを攻撃しても、その部分が周りのビルなどで再構成されるだけで決定打にはならない。
幸いなのが相手の怪人が攻撃を受けるだけで、一向に攻撃を仕掛けてこないことだった。不気味なほどに静か。しかし倒す手段が見つからない。
「レッド……こうなったら最大の必殺技で完全に倒すのがいいんじゃないか」
イエローからの言葉にしかしレッドは首を振る。
「もし……それでも倒せなかった、どうする?」
「ちょっとレッド! そういうことは考えちゃいけないよー」
「けどねブルー。アレを使っちゃったらこのロボットの体力はほぼゼロになるんだ。そこで反撃をされたらひとたまりもない。だからあれはここぞって時に……そう。あいつの倒し方がわかった時に使わなくちゃ」
「それは……いつなんだ?」
イエローの言葉に返す言葉が見つからなかった。本部からの通信はない。あるかどうかもわからないコアを狙い続けて、ただ体力を消費させていくしか無い。
3人のいる操縦席のモニターに映る不気味な怪人。3人共それを睨みつけて、レッドが自分に気合を入れる。
「やるしか! ないでしょ!」
気合いは他の2人にも感染する。巨大ロボットの剣を持つ手に力が入る。大剣が発光をはじめてロボットが前へと進み出す。いまやれることをやるために怪人へと斬りかかろうとして、寸前。巨大怪人の姿が消えた。
「どこ!?」
あたりを見回す3人。
その足元に、巨大な怪人だったスライムは体を形成する力を失って崩れ落ちていた。
意識が飛ぶ寸前で怪人との接続を解除する。
恵里佳は、あらかじめ買っておいた栄養ドリンクを飲みながら裏路地で呼吸を整えていた。最初のころに比べると生体エネルギーの転換は無駄なく進化していた。一時的にだが蓄えておくことも可能で、今回は2日分と現在の体力を使用して怪人はパワーアップをしていた。
それでも、あの巨大ロボットを倒すまでには至っていない。
「私一人じゃ、ここが限界ね」
老人への報告は済んでいる。あとはこのまま戻るだけ。なのだが。
恵梨香は視線を感じていた。どこかから見られている感覚。もしかしたらあのロボットのパイロットに見つかったのかもしれないと、気を引き締めて意識を集中させる。栄養ドリンクのおかげか跳躍して逃げ出せるまでは体力が回復している。
「あの……」
声をかけられた。いよいよだと跳躍しようと足に力を入れて
「オレです……」
続く声に足に入れた力を抜いた。声をかけられた方角へと振り返るとそこには一人の少年の姿。
恵梨香は、悪の組織の首領としての彼女は、その少年に見覚えがあった。
「キミはこのあいだの……」
「はいそうです。覚えていてくれました?」
覚えていてくれたことに表情を輝かせる、宗次郎。
宗次郎は、町中で闘いが始まったと聞いて学校からの帰宅途中に現場まで来ていた。今回はいつもよりも長く、ロボットが苦戦をしていたこともあり警察による包囲も遠くまで敷かれていた。それも先ほど近場まで解除されて、足を向けたのがビルの谷間の路地。
「まさかまた会えるとは、思っていなかったかな」
それは恵梨香の台詞だった。なぜこんな危ないところにと口にしようとして、危なくしているのは自分だからそれはおかしいと、別の言葉に言い換える。
「またこんなところに……物好きなのか?」
すると照れる宗次郎。
「褒めているわけじゃない」
それでも表情は変わらない。
「私が誰か知らないわけじゃないだろう。私が正義の味方じゃないことは知っているんだろう?」
「最初出会った時は知らなかったけど、いまは知ってますよ。さっきまで暴れていた怪人のリーダー? でしょ?」
「怖くないのか?」
直球に訊ねる。宗次郎は、自分の右手を彼女へと差し出して見せて
「震えています。そりゃあ怖いですよ」
右手を引っ込める。
「この街には、街を守るヒーローと街を壊そうとする悪がいる。それはこの街に住む人ならだれでも知っているわけで、その悪のリーダーが怖くないって人はいない。けども」
はにかんで
「なんとなく、来たくなったわけで」
胸の前で腕を組んで恵里佳は、路地裏のアスファルトの上で正座をしている宗次郎を見下ろしていた。
「なんとなく来たくなった、このあいだキミはそう言っていたな」
土下座をさせられている宗次郎はどこか嬉しそうな表情。
「しかしだからといってこう何度も来る必要があるのか?」
つい先程まで恵里佳は首領として戦いに参加をしていた。そもそもそうでなければこんな路地裏に足を運ぶ機会もない。
「それに、なぜキミは私がいる場所を正確に訪れてくる。まさか私に何か発信機でもつけているんじゃないだろうな」
「いやいやそんな。たまたま来てみたらたまたま出会っただけ、です、はい」
嬉しそうに答えて恵里佳にキツく見下されて最後は声も小さくなる。
「いいか。次、もし私の前に姿を現したら命はないと思え。わかったな」
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