2章 Bパート 6

 街の中に警報が鳴り響く。警報は一つではなく複数鳴り響いている。鳴り響いている個所も一つや2つではなく、街全体のあちこちで響いていた。


 この警報が一つだけなら怪人が現れたものの、その地区は比較的離れているということになる。警報の種類が増えるほどに出現地域と近距離ということに。あまりに近いと複数の警報音に会話のまともに聞こえなくなる。そもそも、その状況でのんきに会話などしていてはいけない。まず逃げることがなによりも重要。


 警察がすぐさま駆けつけて避難誘導するよりも先に、避難地域の住人たちの避難はほぼ完了してるいる。慣れたものだった。数分後に警報が止まるころには警察も含めて人っ子一人としていなくなっていた。

 このあと怪人が別の場所に移動するようであれば再度警報が流されるが、今回もそうであるようにそうなる前に3機のロボットが現場に現れた。

 巨大な怪人よりはコンパクトだが普通乗用車数台分もある3機のロボット。ひとつは真っ赤なワシ型。ひとつは青いヒョウ型。最後に黄色いゾウ型。3機は怪人を牽制しながら行く手を塞いだ。すると、3機は光りだして変形を始める。ワシの羽が頭部と肩を作り、ゾウが胴体と下半身。ヒョウが2つに分離して両腕を作って3機が合体してひとつの巨大ロボットへと変形した。巨大ロボットの指が巨大怪人を指す。


『珍しいこともあるじゃない。敗戦の将が最初からいるなんて』

 指差す先にいるのは怪人の肩に乗っかっている恵梨香。もちろんいつものタイツを着込んでいて顔には仮面。

『でもそんなところに立っていて危ないんじゃないの? これから倒されるんだしさ』

 スピーカー越しに小馬鹿にしたような言葉。別の少女の笑い声も漏れて聞こえてくる。勝手を言わせておけばいいと、今日の恵梨香はなにも反論をしない。いや、できなかった。このために怪人の肩には人が立っていられるように、固定させるための装置が付けられていた。そのひとつ、彼女の手首を固定している拘束具はただそれだけではない。

「ん……!」

 相手にばれないように表情は変えない。振り落とされないように固定されている体は、同時に立っていられないようになっても倒さないようにするための、拘束具でもあった。まるで常に全力疾走をしている気分だった。拘束されている箇所から体力気力といったものが吸われてこの怪人へと流れていく。それが今回の実験。

『人の生体エネルギーをこの怪人の活動エネルギーへと変換させることにより、今までとは比べ物にならない力が生まれるのです』

 そう説明を受けていた。が、仮面の下の表情は徐々に隠し切れない苦痛に変わりつつある。


「これは……実験がすぎる……。私一人では保たんぞ」

 拘束具のお陰でまだ立っていられる。しかしその甲斐があってか、今回の戦いは恵梨香側が押していた。怪人の腕が巨大ロボットの攻撃をことごとく防ぎ、かわりにロボットを押し倒す。ロボット側が押されれば当然街の被害は増える。崩れるビル。壊れる道路。これはいけると、声を大にして言いたかったが口を開けば呻きが漏れそうで、ただ拳を強く握るだけにおさめる。終わらせるのなら早く終わらせたい。いや、終わらせなければ彼女自身の限界が近い。立ち上がる巨大ロボット。周りの様子を見て

『よくもやってくれたわね!』

 スピーカー越しに声が飛ばされる。

『いいわ! こうなったら二人共! アレを試すわよ』

『えっ、ちょ、ちょっとまってよレッド。アレって………まさかアレのことじゃ』

『もちろんアレよ!』

『待ってくれレッド。アレはまだ実戦段階ではないぞ。まともに成功したことすらないじゃないか。危ないにも程がある』

『だからいま試すのよ! この状況だからこそ! なのよ!』

 なにやら巨大ロボットの中で言い争っている。チャンスなのにここを攻められない。すでに意識は混濁とし始めた。拘束を外そうにもその体力も無い。


 本拠地で闘いをモニターしていた老人は

「ここまでか」と呟いて、緊急脱出用のプログラムを起動させた。


『できた! ほら見なさいよね! 人間やればできるのよ!』

 新たなロボットがこの場に現れていた。巨大な蝶形のロボットは巨大ロボットの目の前で変形して巨大な剣へとなり、それを掴んで

『はぁぁぁっ!』

 跳躍。着地地点には巨大怪人が。しかし、先程までの力は怪人にはなかった。肩にいた恵里佳は緊急脱出プログラムの作動で、肩パーツに身を守られて怪人から射出されていた。


 恵梨香は意識が途切れる間際、怪人が真っ二つにされるのを見ていた

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