2章 Bパート 4

 気合を入れて検証をしすぎた結果、気がつけば学校に行かなければならない時間を大幅に過ぎていた。


 急いで着替えて組織を出て、それでも学校につくことには2時間目が終わっていた。

 教室に行く前にまずは職員室へと行って、無断欠席をしてしまったことを陳謝。普段が普段なので、深々と頭を下げられた教師のほうが萎縮していた。それから2時間目の授業が終わるタイミングで教室へと入る。


「やぁめずらしいな。亜久野さんが遅刻とは」

 すぐに彼女を姿を見つけて、イスから立ち上がって寄ってくる風。

「えぇ、ちょっとね。赤城さんも今日は朝早くから大変だったんじゃないの」

 他のクラスメイトの挨拶を返しながら自分のイスまで辿り着いて、荷物を置いて自分はイスに腰かける。前の席は赤城風の席で、そこに彼女ももう一度座る。

「んー。まぁあたしの方はいつものことだよ。もう慣れちゃっているしさ」

 苦笑交じりに答える。

「で、そっちは何かあったのかい? 見たところ病気や怪我……ではないようだけど、もしあたしに手伝えることがあれば遠慮なく言ってほしいな」

 この街を守ろうとする巨大ロボットを倒せないの、とは言わない。


 組織の首領として立つときとこうして女子高生をしているときは、同じ亜久野恵梨香であってもまったく同じではない。

「ううん」首を振って

「大丈夫。そういうのではないから」

 一言付け足す。

「ありがとう、赤城さん」

 答えに満足したのか風は背中を向ける。

 鼻歌交じりに肩を動かして、どこか嬉しそう。


 午前中の授業が終わって昼休みの時間になった。

「ん? 亜久野さんどこに?」

 弁当箱を手に持って後ろの席へと振り返って、ちょうどそのタイミングで席を立つ恵里佳。

「ちょっと……出てくる」

「わかった。じゃあ待ってるよ」

 弁当箱を持って立ち上がっていいないことからすぐに帰ってくるだろうと、手に持っていた自分の弁当箱を彼女の机の上に置く。

「早めに帰ってきてね。あたしが空腹に耐えられなくなる前にさ」

「善処はするよ」


 恵里佳としても長く時間をかけるつもりはなかった。もともと迷惑をかけたことを謝りに行くだけ。その行為で相手を長時間束縛させるのは逆効果。

 教室を出て騒がしい廊下を歩く。すれ違う生徒が生徒会長である恵里佳に挨拶をしてそれに彼女も答える。階段を降りて下級生の教室のある階層へ。同学年の生徒なら生徒会長でもある彼女へと気さくに言葉をかけてくるが、これが下級生になると威圧感を覚えてしまうのか、まず目を合わせると背すじを伸ばしてくる。挨拶をしようとして声が裏返る生徒も出てくる。

 もちろん普通に挨拶をしてくる生徒もいる。

「あれ? 恵里佳さん? 珍しいこともあるものだ」

 一緒に住んでいるものの、学校内では特別会うことはない。彼女がやってきたのは宗次郎のいるクラスだった。

 扉の近くの生徒が数人、彼女の姿を見つけて手に持っていた箸を落としそうになる。

「すまない、いまちょっといいか?」

 宗次郎は、通学カバンから弁当箱を取り出していて、ちょうど机の上で開こうとしていた時だった。同じ机にはすでに凜花と嶄の弁当箱が広げられていた。それなので宗次郎は二人を見て、2人は頷いて

「行ってきたらいいんじゃないかな?」

「こちらはこちらで先に食べている。気にしなくていい」

 その返答をもらって

「じゃ、じゃあ」と、開きかけた弁当箱を机の上においてイスから立ち上がる。


 てとてとと、他のクラスメイトのじゃまにならないように机の間を通り抜けて恵里佳の元へと。

「すまないな。こんな時間に、しかも食事の邪魔までして」

「ううん、そんなことないよ。俺としても恵里佳さんがちゃんと登校しているって知れてよかったし」

 その言葉に恵里佳の表情が少し濁る。

 教室から少し離れて中庭へと出る。ここもこの時間は人も多い。それでもみんながみんなそれぞれの会話を広げているので、やってきた二人の会話にわざわざ聞き耳を立てる生徒はいない。


「今朝は……迷惑をかけた。すまなかった」

 本当は深々と頭を下げたかったが、それをするとさすがに注目を浴びる結果になりそうだったので、軽く頭を下げる。しかしどちらにしても慌てる宗次郎。

「ど、どうしたのいきなり」

 あわあわと視線をあちこちに巡らせる。

「今朝の私の……無断遅刻で迷惑をかけたと先生から聞いた。完全に私の落ち度だ。遅れることがわかったのなら学校に電話の一つでもするべきだったんだ。まさかその結果宗次郎くんに迷惑をかけるとは……思慮が浅かった。本当にすまなかった」

 もう一度頭を下げる。

「い、いや、そ、そんな」

 思考も慌てている。どうにかして落ち着かせて

「こっちだって、恵里佳さんにはいっぱいいっぱい迷惑をかけているから……その……顔を上げてよ。恵里佳さんに頭を下げられるとこっちが恐縮しちゃうし……」

 無駄に辺りを見回してしまう。幸いにも2人に注目している生徒はいなかった。

「失敗を犯してさらに宗次郎くんにまで迷惑をかけた私を、キミは許してくれるのか?」

 胸に手を当てて少しだけ潤んだ瞳を向けてくる恵里佳に

「もちろん、です」

 それまでのうろつく視線を落ち着かせて、真正面から宗次郎は答えた。直後に、宗次郎の体が柔らかいものに包まれた。

「キミはほんとうに優しいな」

 包まれたのは一瞬。けれども余韻は続く。

顔を真っ赤にして宗次郎はまたも視線を泳がせた。


「本当に優しい。優しすぎて、もっと甘えたくなるほどだよ……」


 まだ余韻に浸っている宗次郎では気がつかなかった。

 憂いを帯びた表情を彼女が浮かべていることに。

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