2章 Bパート 3
時を現在に戻し、登校のため宗次郎はテレビを消して家を出た。それなので怪人騒ぎのこの後の流れを彼は知らない。
いつもながら恥ずかしい格好。全身タイツに近いこの格好を恵里佳は好んではいなかった。貧しいプロポーションではない彼女の体型だが、それだからこそ体のラインがわかりやすいこの格好が好きではない。それでも組織の顔としてしなくてはならないらしく、今日もマントを羽織り、顔の上半分を隠す仮面をつけて人前に出る。
直前に深呼吸をしてきたのでもう緊張はしていない。
「またも我々の邪魔をしてくるか!」
ボロボロにやられた怪人の体の上に立ち、指差す先には巨大ロボットの姿。
ロボットの中には3人の少年少女が入って操縦している。その3人の素性は恵里佳もわかっていた。しかし組織の首領として立っている今、知っているはずだけどそれは知らないこと。
「お前たちは一体何が目的でここまで私たちの邪魔をする!」
『それはこっちのセリフだね』
ロボットの頭部のどこかにあるスピーカーから声が聞こえてきた。
『そっちこそいったいなんの目的があって何度も何度も何度も!』
声を張り上げすぎて反響音が鳴り響く。収まるのを待ってから
『あたしたちはこの街を守るために何度も戦う。そっちが何度襲い掛かってきても返り討ちにするだけだ!』
コックピットのほかの二人のだろうか、拍手の音が拾われている。
「それならばいいだろう。こちらは何度でも、そう。我が組織がこの街を手中に収めるまで何度でも立ち上がり、いつかはお前たちを倒す!」
『やれるものならやってみなさいよね! はたしてあんたたちにそれができるかしら?』
『どっちも悪役っぽいせりふだねー』
またも、今度は声が拾われた。
「ふん!」
話し合いは終わった。巨大ロボットに背を向けて怪人の体の上から降りて立ち去っていく。
ロボットと怪人との戦いが発生すれば、その付近は完全な立ち入り禁止となる。これは慣れたもので、今では自主的に避難が行われていて怪我人が出ることはめったに無い。さらにはある程度安全な位置で警察もスタンバイをしていて、途中から入ることもできなければ出ることもできない。
「まったく……無駄なことを」
恵里佳の行く手を阻むように立ちふさがる警察官の集団。全員が拳銃に手をかけていて、この後の行動によってはその場での射殺もあり得る。だから、恵里佳は宙へと跳躍した。身体能力の向上の追加効力。これも今の恥ずかしい格好の効果の一つ。
あっという間に近場のビルの屋上へと降り立って、地上の慌てる警察官を尻目にさらに跳躍してビルの谷間に消えていった。
自分の正体を知られてはならない。
人気のない古びた廃工場でなおも当たりを警戒しながら、廃材の下に隠された入り口から地下へと入っていく。中は地上の建物よりも古い通路が広がっていて、明かりもないので入り口を閉じれば漆黒の闇が広がる。暗視機能もある仮面のお陰で壁にぶつかることも道を迷うこともなく目的の扉に。
暗証番号を入力してドアを開ける。きしむドア。いい加減油をさして可動を良くしたいと提案するが、この音のほうが雰囲気が出て良いのですと必ず却下される。
扉を抜けてなおも薄暗い通路を更に進んだ先、もう一枚扉を開けてようやく満足な光が恵里佳を包み込んだ。
「おかえりなさいませ我らが首領」
入室した恵里佳を出迎える初老の男性。垂らした頭を上げて
「結果は残念でしたが、今回も貴重な戦闘データが大量に取れました」
「そうか。それならいい」
部屋は教室の半分ほどの広さで、大きめのモニターがTV局の数だけ置かれていて現在もテレビ番組が流れている。やはりどこの局も流してるのは先ほどの闘いの映像。闘い自体はそう長い時間かかるものではなく、発生からテレビ局が封鎖地域ギリギリまで接近してカメラを回すころには終わっていることがほとんど。そのため闘いの様子が写されている映像は今でも視聴者撮影がほとんど。テレビ局に渡すことが前提になって封鎖地域内に無断で入るといった問題も増えているため、このことについてしばしば議論になっている。
なお、関東ローカルのテレビ局だけはこの時間でも通常通りの放送を続けていた。
「連戦連敗。あの搭乗者の言葉じゃないが、わたしたちは一体なんのためにこれを続けているんだろうか」
テレビの中でそれぞれ別のタイミングで巨大怪人が倒されていく。惜しいところまでは何度もいった。今日こそは、今回こそはあの巨大ロボットを倒すことができる。そのたびに、時には巨大ロボットの追加兵装が相手のピンチをすくい、ある時はパイロットの気合いとともに機体性能がアップして倒される。
「こんなことを続けていて、いつになったら父さんの果たせなかった夢を叶えられるんだろうか」
「それ以上はいけませんぞ」
部屋の中の空気が重くなる中、老人の声が響く。
「あなたはたとえなにがあろうとも前を向いていかなければならないのです。あなたの士気はあなただけのものではない。この組織そのものなのです。それをお忘れなく」
恵里佳は顔につけていた仮面を外して、素顔で老人を見た。それから薄く笑って
「そうだったな」
低く笑って、マントを横へと広げた。
「すまなかったなダゴン。こんなことでは父に叱られてしまう。私はこんな弱音を吐くために育てられたわけではない」
腕組みをして
「こちらで録画した映像をはじめから再生してくれないか。問題点を探し出していこうではないか」
「はい。それでこそ我らが首領ですぞ!」
やけに嬉しそうに老人は手元のパソコンを操作して、映像をモニターの一つに写しだした。
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