Aパート 少年は出会う。

1章 Aパート 1

 あたたかすぎる日差しに思わず眠りそうになってしまった。それでも眠気に打ち勝って宗次郎は高校へとなんとか登校した。道中何度ため息をしたかは本人にもわからない。

 下駄箱で靴を履き替えて自分の教室へと向かう。1ー3と表示されている教室にたどり着いて、半開きの扉を横に開いて

「おはよう」

 朝の挨拶を口にするがすでに教室内は騒がしく、扉付近にいたクラスメイトから挨拶の返事をもらって今度は自分の席へと向かう。教室の中はいくつものグループがそれぞれ会話をしていたが、していた会話の内容はほとんどが同じだった。昨日の怪人騒ぎ。


 席についてかばんを机の側面にかけ、腰を下ろしたところで近くで喋り合っていたグループが宗次郎の姿に気がついて

「おっ、鏑木くん来ていたんだ。おはよう」

「おはよう」と、挨拶を交わすといきなり机をそのグループに囲まれた。

「鏑木くんは今朝のニュース見た?」

「んー。あぁ。見たよ。そりゃあ見るよ。どこの番組も昨日の怪人のことしか流していないんだからさ」

「だよなぁ」

 納得して頷くクラスメイトたち。

「怪人騒ぎがあってすぐに都会のマスコミさんたちがワンサカ押し寄せてくるもんな。でもこの街に住んでいる俺たちはそれほど騒いでいないっていう。まったくこれだから都会の連中はさ」

 両手を肩の高さまで上げて首を振る。

「なんていってるけどさ、こいつわざわざ現場まで行ってマスコミのインタビュー受けたんだぜ。実は一番騒いでいるのが自分ていうオチだよ」

「おいてめぇ! それ言わない約束だろ!」

 背後から会話に加わった別のクラスメイトの言葉に、少年は顔を赤くして口をふさごうとするがもう遅かった。他の面々から「えーまじー」「ひくわー」などと冷たい視線を浴びせられていた。

 それから少し立った後に担任の教師がやってきた。


「全員揃っているな。うん、よし」

 空いている席は2つほど目に写ったが、それにはなにも言及しない。

「最近少し怪人騒ぎが増えてきているから、今日は政府からのプリントを配る。各自ちゃんと保護者に渡すようにな」

 入るときに抱えていた紙の束を4等分して、それぞれの列の先頭の生徒に手渡す。

「先生これ先週配りませんでしたかー?」

 自分の分を引き抜いて残りを後ろの生徒に渡しながら、目を通したプリントは他の生徒も見覚えがある。

「ん、仕方ないだろう。まったく同じ文章だが定期的に配らんといかんのだ」

 宗次郎のところにもプリントは回ってきて、一枚抜いて残りを最後尾のクラスメイトに手渡す。

 全員にプリントが行き渡ったのを確認して

「まぁなんだ、こんな状況だ。政府としてはちゃんと住人全員に行き届いているというのを重視したいんだろう」

 回ってきたプリントにはこの街が置かれている状況と、転居の際には政府から援助金が出ること、留まる場合は税金の免除が書かれていた。

 この街に住むものならだれでも知っている言葉の羅列。


 この街は悪の秘密結社に狙われていた! 

 彼らが望むのは自分たちの力を見せつけ、いずれは世界を手中に収めること!

 しかし政府はこんな事もあろうかとこの街に防衛隊を組織していた。

 配備された3体の巨大ロボット。そしてそれを操る3人のパイロット。

 怪人が幾度と無く襲いかかってきてもその3人が何度でも返り討ちにする。


 そうしてこの街は守られてきた。


 今までの闘いで崩れた建物は数知れず。しかし死亡者は一人も出ていない。崩された建物の修理費も政府が持ち、建築の際もロボットが活躍するため復旧も今まで以上に早い。

 さらにはこの街にいる間は税金のほとんどが免除される特権付き!


 代わり映えのない文章が書かれた髪を二つ折りにして、机の中に押し込む。いまさら教えられなくても知っていること。ただしこのプリントには、それでも一定数は街から出て行っていることまでは描かれていない。今まで出なかっただけで、死の危険がないわけではない。もっともたとえそうであっても宗次郎は街から出ようとはしないだろう。


 ホームルームが終わろうとしたころに教室後ろ側の扉が開けられた。

「すみません、遅れました」

「申し訳ないっすね」

 長身の少年と小柄な少女。2人がホームルーム中に入ってきてもそれを咎めるものはいない。それどころか

「おお、昨日はお疲れ様。見ていたぞ」

 教師の言葉に長身の青年が、前髪で隠れた顔を垂らした。

「ども」

 それがきっかけになって教室が騒がしくなった。

「おつかれ二人共! かっこよかったぜぇ!」

「おつかれ凜花ちゃん。怪我とか大丈夫だった?」

 立ち上がって駆け寄る生徒はいなかったが、イスに座ったまま上半身を2人へと向けて、贈る言葉はねぎらいの言葉。

「まっぁねぇ! 私たちにかかればあんな怪人、敵じゃないよ!」

 左手を腰に当てて右手でピース。

「さすがにねぇ、あいつら程度じゃヒヤリともしなくなってきたよ。こっちも場数は踏んできているからねー」

 今度は両手でピース。その背後で

「凜花、慢心はよくないぞ」

 そう呟かれて

「えへへー」と指先で頬をかく。


「さて」

 パンパンと手を叩いて自分を注目させる教師。

「二人共疲れているだろうからここまでにして、そろそろホームルームも終わりにするぞ」

 ようやくそこで、生徒たちは自分たちの机へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る