ヒーローのいる世界に少年はいた。ただし少年はヒーローではない

桐生細目

オープニング よくあることだ

 少年の目が開く。


 直前まで、夢の中でなにかを見ていた記憶があった。

 鮮明には思い出せずに、思い出すのをあきらめる。

 よくあることだ。


 ベッドから降りて背筋を伸ばして、窓を開ければ朝日が部屋の中に舞い込んできて、眩しすぎて顔をゆがめる。

 よくあることだ。


 パジャマから高校の制服へと着替えて、最後の1枚を羽織らずにYシャツのまま部屋を後にする。

 部屋のドアを開けて廊下に出ると鼻孔をくすぐる匂いに腹が鳴った。

 その音に気がついたのかどうなのか、台所の方から声がかかった。

「あら、おはよう宗次郎くん。

 残念、もうちょっと眠っていたら起こしてあげに行くところだったのに」

 本当に残念そうに頬杖をつく長身の少女。これもいつものことなので

「おはよう恵里佳さん」

 いつものように朝の挨拶を交わす。

 

 すでに朝食が用意されていたテーブルにつき、2人だけで食事の時間が始まる。いつものように他愛のない話を広げ、先に席を立ったのは少女の方。

 いそいそと出かける準備を整えて

「それでは私は先に行くから。戸締まりをよろしくお願い」

 通学カバンを右手に左手をドアのノブにかけて、少しだけ振り返って

「行ってきます」

 ほんのりと笑顔を、まだ食事中の少年へと送る。

「行ってらっしゃい」

 少女の朝は少年よりも早い。これもいつものことだ。


 朝食を食べ終わって片付けをして時計をちら見。少年が出て行く時間までにはまだ余裕がある。テレビの電源をつけてもう一度食卓の椅子に腰を掛けて時間を潰すことにした。この時間帯に放送しているのはニュース番組が主。

 液晶テレビに写ったのは、巨大ロボットの姿だった。


『昨日、街を襲った怪人は防衛隊によって無事倒されました。市民の中には被害が少ないうちにもっと早く撃退してほしいという声も挙がっており』

 リモコンを手にとってチャンネルを変える。しかしそちらのチャンネルでも同じ案件を扱っていて、ちょうど流れだしたのは昨日起こった怪人と巨大ロボットとの闘いの様子だった。

 視聴者が撮影したものらしく映像は視点がぶれぶれだったが、巨大ロボットがほぼ同じ背丈の怪人にとどめを刺すところが、撮影した視聴者の声とともに映しだされていた。もう一度チャンネルを変えるとそこでは現在の様子が。先程までのロボットよりは少し小さめのロボットが急ピッチで壊された建物の瓦礫をどかす作業が映し出されていた。


 よくあること、それも。いつもの事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る