第3話猿 犬 水牛 時にイルカ

バラナシの朝はきまって、朝日を眺めながらチャイを飲んだ。


母の死からまだ3ヶ月も経っていなかったと思う、それなのに千のこともあっちゃんのことも忘れて、ただ旅を満喫して、カオサンストリートで編んでもらった、ドレッドにご満悦だった。


ガンジスを無心で眺めて、インド人に倣い沐浴をして、ゲストハウスに戻ってシャワーを浴びる。

一階からは他の日本人の旅人の鳴らすシタールの響き、どこかノルウェーの森に似ている

、そんな生活を1週間くらい続けた頃


ゲストハウスに元気な女の娘、あやがやってきた。


旅をしていると、人は結構輝いたりする。

あやは綺麗に光っていた

僕らはすぐに仲良くなった。

話を聞いていると、彼女もまた母を亡くしたばかりだという。

胸からは母の遺骨のかけらを下げていた

母なるガンガーにその遺灰を流すと、この世の輪廻から離れられるのだという

それを知ってか知らずか、あやは遺骨を胸にしていた。


朝のチャイの時間にあやが加わり

勃起した犬が、他の雌犬を追いかけ回している

インド人の子供はなんでもお見通しだ

イッツ ユー ジャパニとからかわれた。

だが僕の心を投影したかの様な風景に、ビビってしまう


今は違うが、若い頃の僕は性欲が優っていた


千には君が武蔵で私がおつうだねと諭されてからの長旅

ちっとも千を思い出さない

めまぐるしく変わる日常

まるで毎日が祭りの様な日々

あやとの出会い

僕は早速恋に落ちた。


意気投合した僕らは、ネパールのポカラが大変素晴らしい土地だと話を聞き、その頃友人になった同い年のドレッドバックパッカーの望くんと3人でポカラに、向かうことにした。


1ヶ月はバラナシの朝日を眺め、ボートの上から夕陽を眺めて、猿の神様 ハヌマーンの祈りというか祝祭を経験して

ガードのはじから、端までいったりきたりして、ゲストハウスの屋上でチャラスを吸いながら夜更かしして


もちろん、あやが一緒だった。


ハヌマーンプージャのクライマックス

インド人たちは、爆弾の様な爆竹を鳴らす

ラーマヤナでの勝利を祝うためだと思う。

調子に乗った僕は、13回も爆竹を鳴らした。


若いサドゥが訪ねてきた

ヘイ、ジャパニ ハウメニタイム ユー ボムド?

サーティーン!と僕

サドゥは下を向き、悲しそうにノーと一言

その時は気にも留めていなかったが

どこか不吉な気持ちになったんだと思う。


また、別の日にあやと2人でガートを散策中

水牛使いが僕らに話しかけてくる

インド人は、牛は食べないが、水牛はごく稀に食べると言う。

なぜなら、水牛はブル要するに馬鹿だからだと言うのだ。

神話的には、水牛の魔神の様な存在がいたと思う。

話を終えた、あやと僕と水牛使いは、さよならをして、ガートの端を目指した。

すると、水牛の群れのはずれで、水牛の子供が、目に涙をためてその潤んだ瞳で僕を見ている。


ねぇ、僕ら水牛は時に無茶をするけど、いじめないでね、優しくしてねとその目は言う。


そんな毎日を過ごして、望くんと、着ていた泥だらけになったティーシャツとタイパンツをガンジスで洗う。

さぁ、明日からはネパールだ


あやは大麻を吸わなかった

なぜインドに来たかと問うと、天真爛漫に

「出会いを求めて」

と言った。


ひどく、落ち込み混乱して、ふさぎ込んで

あやと二人ガートを歩いていた時に

インド人の子供に、すぐに沐浴してと言われて沐浴したことがある。

そんな時に、あやはそっとあやの母の遺骨を散骨していたと思う


インドは不思議だ、小さな幻覚を見た。

大麻のせいかもしれないが。

いや、大麻のせいではない。

その幻覚は、寺院での祈りの際に、小さな菓子袋を貰ったんだけど。

その時の祈りの音、雑踏をすれ違う人々

なんか、ひどく混乱してたんだと思う。

菓子袋の中に、大きな蟻がいる!?

その蟻はすぐに消えてしまった。

蟻、蟻、と騒いで、近くのサドゥに問いかけると、

心配ない、とその目は語っていた

生まれて初めての幻覚は、蟻だった。


ねぇ、彩君

ガンジス河にはイルカがいるんだって

あやが言った。

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