第4話 内紛

 今、暗闇の森の中を、見つかりにくいだろうという理由で歩いている。

GPSで方角がわかるとは言え帝国兵の位置までは教えてくれない。

慎重に歩を進める為になかなか先に進むことができずもどかしい。


 既に時間は深夜0時を回った。真夜中だ。何時間歩き続けたのだろう。

もう疲れて動けない。女性たちも表情がなくなって久しい。

しかし、ここで止まれば先刻のように帝国兵に遭遇するかもしれない。

銃があるとは言え、できれば使いたくない。

精神的にも物理的にも。

激しい音がするので他の帝国兵が集まってくる可能性が多々ある。

この辺りは未だ秘密の工場を探す為に兵士が散開している。

その為に兵士と遭遇する可能性が大きいだろう。


 更に歩き続けると工場を探している帝国兵を見つけた。

夜にもかかわらず今日の探索が終了していないところを見ると秘密の工場の発見は急務であり、工場の存在は中国の侵略に大きく影響するものではないかと推測できる。


 全員で木の陰に隠れた。帝国兵は気づくことなく通り過ぎって行った。


 ホッとしたのも束の間、兵士が去った方角が騒がしくなり銃声がした。

 静かになり、兵士がライトで照らす。

 見ると、若い男女数名が兵士に銃を突きつけられていた。


 その数名は見たことがある。多分バスで一緒だった人達だろう。

 兵士は中国語で話している為に何か言われているがなんと言っているのか分からない。

 このままでは先刻同様、男は殺され女は犯されることになることは目に見えている。


 しかし、確実に愛莉の所へ帰る為にも危険は冒したくない。ここは静かに退散して一刻も早くここから離れよう。


「逃げ・・」

「助けよう。」


 逃げるぞと言おうとした言葉にかぶせて小太りの玉木さんが言う。

 一人で助けろよ、俺は逃げるよと言いたかった、が言えなかった。

 俺の男気スイッチが押され、その言葉を発することができなかった。


「晶くん、あなたの魔眼で助けて。」


無責任にも小太りすぎる玉木さんが責任放棄した。


「え、俺に丸投げ?玉木さんは助けないの?」

「私に出来るわけないじゃない。晶くんの魔眼で助けて。」


 くそ、名前の玉の様に丸い玉木さんは(苛ついているから嫌味)助けようといったにもかかわらず、自分で助けず、助けを押し付けてくる。玉木さん、それは助けようではなく助けてと言うんだよ。

 だったら、気づかれる前に脳を潰せばなんとかなるかもしれない。

 未だ100メートルくらい離れているが試してみた。

 効かなかった。


 兵士は頭が痛くなっただけか、何かを感じただけか、頭を左右に振っただけだった。

 だったら血管だけを押して血流を止めればどうだろう。それならできるかもしれない。


 集中し頭の血管をイメージした。そしてそのイメージを押しつぶす。実際に潰せなくても血流を止めることができれば気絶するかもしれない。


 イメージするが良く分からない。

 結果も発生しない。


 イメージが足りないから違う場所を動かしているのかもしれない。

 

 だったら首の血管は?


 場所はわかる。遠くても気絶させられるのではないのだろうか。

 やってみる。

 すると貧血のように膝を付き、そのままうつ伏せに倒れた。気絶したようだ。

 もう一人の兵士が駆け寄り、倒れた兵士を揺すって中国語で何かを語りかけている。


 その間に距離を詰めた。


 近づくと、捕らわれた日本人はやはり同じバスの中で見たことがあった日本人だ。煩かったので覚えている。


 十数メートルまで近づいたので倒れた兵士を揺すっている兵士の脳を破壊した。痛みもなく死んだことさえ気づいてないのかもしれない。


 殺す行動に慣れてきた。


 ただ、感情はそれを許さない。人を殺した事実が重くのしかかる。


 そんな気の重い事を平然とヤレという小太りの玉木さんを自分勝手なやつだと自分の中で低評価を付けた。

 どうしても小太りを連発してしまう。

 これが巨乳の藤城さんならなんて優しいんだと高評価を付けるのだろう。

 だとすれば、一番自分勝手なのは俺なのだろうと心のなかで自分の低評価ボタンを押してしまった。


「大丈夫か?」


 捕まっていたのは5名だった。皆さん揃ってヤンキーだ。アメリカ人というわけではない。


「助けられるんだったら、早く助けろ!」

「は?」

「早く助けろっていうんだよ。何してやがったんだ。」


 こ、これが今の若者の言葉か?助けてもらったのに。俺には助ける義務もないのに。感謝は?感謝の言葉はどこ言った?


「いえいえどういたしまして。」


アメリカ人のように嫌味を言ってみた。


「は、何がいえいえどういたしましてだよ。感謝なんかしてねぇよ。お前らが俺らを助けるのは当然だろ。同じ日本人なんだから助けるのが義務だよ。助けなかったら保護責任者遺棄罪だ。」


 は?俺はお前の保護者じゃねぇーよ。引受行為もしてないし。思わず口に出そうになったが事態が必ず悪化するから心の中だけにとどめておいた。


エスパーはいないだろうな?


「そうよ、あなた達遅いのよ助けるのが。怖かったんだから。あなた達脅迫罪よ。私達法学部だから法律に詳しいのよ。」


 何が脅迫罪だ!どこの大学で法律の勉強されてるのだか分かったもんじゃないな。


「ところで、お前、いい銃持ってるじゃないか。2本もあるぞ。両方俺によこせ。」


 それ、どこのガキ大将の理論ですか。よこせるわけがない。そんな事も分からないのか。


「無理だな。」


 男をにらみつける。魔眼と言われた目は確実に男の心を折った。


「うっ・・・」

「何よ、やっちゃいなさいよ。正当防衛よ。銃を奪え。」


 終わったと思ったら横のヤンキー女が煽り立てる。そもそも正当防衛ってなんですか。意味がわからなくなる。


「だったら俺がこんなやつぶっ殺して銃を奪ってやる。勿論正当防衛だ。」


 どうやら、こいつらの中では正当防衛と言えば全て許されるらしい。

 男が本気で殴りかかってきた。


「本気か?日本人同士で争っている場合か?お前らさっきまで中国兵に殺されかかっていただろ?それを助けた人間に感謝もなしに攻撃してくるか、普通。」


 体はそれ程鍛えてないにもかかわらず俺は喧嘩には負けたことがない。理由は喧嘩の前に睨みつければ相手が勝手に戦意喪失するからだ。

 しかし、この男は中国兵に銃で殺されかかり体中に溢れたアドレナリンが恐怖を麻痺させているようだ。

 俺の目にも動じず俺に襲いかかる。

こんなことは初めてだ。

銃の恐怖に比べれば魔眼の恐怖など児戯にも等しいのだろう。

まぁ、本物の魔眼ではないので仕方ないが・・・


 相手のパンチが顔に当たる。

 痛い。痛い。痛い。もう殺してもいいですか。

 

 唐突に殺意が芽生えた。


 しかし、殺意を否定し目には目を、パンチにはパンチを繰り出した。当たった!生まれて初めて当たった。相手はよろけて転んだ。

 睨みつけると、今までのアドレナリンでぶっ飛んだ恐怖心が戻ってきたのかチワワの様な怯えた目で見つめてくる。


「何よ、あんた達、早く銃を奪いなさいよ。」


 それでも、先程から煽り立てている女は、尚も煽り立てる。


 ムカついた。


 実はこいつがこのグループのリーダーじゃないのか。こいつを最初からなんとかすればよかったのではないか。その思いが怒りになってその女を睨みつけた。


「すいませんでした。私も仲間に入れて下さい。」


 目が合うと、何故か女は手のひらを返したように赤い顔をして甘えた態度で下手に出てきた。


「いや、普通無理でしょ。君たちは君たちで頑張って生きていって下さい。」

「置いていったら保護責任者遺棄罪ですよ。」

「君たちの保護者じゃないから。何か間違ってるよ。」


 まぁ、この状況で助けんたんだから、それを引き受け行為として保護責任が発生し、見捨てれば本当に保護責任者遺棄罪になりそうだ。


 しかし、ここは、緊急避難という事で見捨てられてもらおう。法益は権衡してる。はず・・・


「じゃあ、銃をください。銃を。そのライフルでいいんで。」

「いいんでって言いながら一番良いやつを貰おうとするのは厚かましいでしょ。」

「じゃあ、小さな銃でいいんで下さい。」

「日本語は間違ってはいないと思うけど、敵に武器をあげたらその武器を使って仕返しするかもしれないでしょ。身体を半分にされた冷蔵庫のような名前の宇宙人のように。」

「私を、そんな冷たい宇宙人に見えますか?」

「見えないわけ無いだろ。じゃーね。早く逃げないとまた捕まるよ。この辺りは何かを探している中国人が沢山いるみたいだから。」

「私は敵じゃないですよ。」

「いや、さっきまで俺を襲ってたじゃない。」

「なんとか私だけでも・・・」

「えーっ、他の人を裏切るの?それって、やっぱり冷たいよ。やっぱりフリー○だな。」


 そう言って、兵士が持っていたレールガンを2丁と一丁しかなかった拳銃を拾って

 ヤンキー五人組と別れて先を急いだ。


「ちょっと、待てよ。」


 どこかの俳優がいいそうなセリフが後ろから聞こえた。

 見ると3人目の男が拳銃をこちらに向けていた。


「死にたくなかったら、すべての銃と女もおいていけ。」


お、女もですか・・・

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