愛の欠片

篠宮

第1話

「ずっと前から消えてしまいたかった。」


彼女がこう言ってから何年経っただろうか。

あの頃の辛そうな顔を見たくはなかったものの、それでも、俺が病室に入るといつも彼女は、ふわりと笑う。そして、大好きな声で、俺の名前を呼ぶ。その笑顔と…その大好きな声は失いたくなかった。

何年たった今も、彼女は俺の中に鮮明に残っている。


俺は毎日欠かさず彼女の墓参りに来る。

お供え物にはプリンをおく。すると、またそれなの?と笑う君の声が聞こえた気がした。


「ねぇ、花言葉って知ってる?俺、最近ネットで見てさ〜」


俺に花言葉という言葉がどれほど似合わないことか。其れは俺自身が一番良く分かっている。でも、こういうのも偶にはいいんじゃない?なんて言い訳をしてみる。


「あ、やばっ。今日、この後用事あるんだっけ。ごめんね、長い事居られなくて。」


すると強い風が吹く。早く行きなさい。遅刻するんじゃないわよ。と、彼女が背中を押してくれた気がした。


「じゃあな!また明日来るから!」


そうして彼が走り去った後には、真っ赤な薔薇が一輪だけ、花瓶に挿さっていたのだった。

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愛の欠片 篠宮 @shino_27

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