ハロー、スマートフォン2

 ハロー、ぼくはスマートフォン。kobiToモデルの22M型ブラックだよ。


 kobiToモデルの中でもぼくは旧型で、新しいモデルがどんどん出荷されているんだ。

 今ではぼくがリリースされたときにはなかった、iNuモデルとかneKoモデルとかもあるんだよ。


 この前、リョウくんと散歩をしていたときにも、犬の散歩だと思って見たらiNuモデルだった、ってことがあったし。今とっても人気のモデルなんだ。


 他にも、kobiToモデルには男女違いがあるんだ。

 ぼくはM型男子タイプで、女子タイプはF型だよ。


「買い替えなあ……」


 ぼそり、リョウくんが小さな声で呟いた。じっとこちらを見下ろす眼鏡越しの目と、目が合う。

 彼はリョウくん。ぼくの持ち主だ。

 そう、何故こんな話題を出したかといえば、リョウくんがスマートフォンの商品一覧を見ているからだ。

 じ……、彼の目を見詰める。


「なあ、22。iNuモデルってどうだ?」

「……リョウくん、犬すきだもんね」


 何せリョウくんのSNSは、柴犬アカウントでいっぱいだ。ぼくは詳しい。


「……いいと思うよ」

「顔、不貞腐れてるんだけど……」

「どうせぼく旧型だし。今では27シリーズが主流だし。あと3ヶ月したら28シリーズが出るし」

「ああっ、わかったわかった!」


 リョウくんが検索画面を横に滑らせる。霧散したそれを視線で追った。


「ショップのページを開いて、お前のバッテリーを注文」

「……いいの?」

「製造中止になる前に買っとく!」


 そっぽを向いたリョウくんが、ぼくを充電器に乗せる。

 ぼくの使用年数は3年8ヶ月16日目で、バッテリーの消耗が早くなっていた。移動中にも、身体が重たくなることがしばしばある。

 リョウくんが携帯充電器を忘れた日には、あんまりリョウくんとお喋りできないし、寝てるか充電切れを起こしている。

 ……きっと、相当不便だと思う。


「……本当にいいの?」

「バッテリー変えたら、まだ使えるだろ」

「うんっ」


 じんわりと滲んだ嬉しさに、口許がへにゃりと緩む。リョウくんはぼくを雑に扱うけど、こういうところは優しいからすきだ。

 たまに落とされて、衝撃緩和シールドを張らなきゃならない羽目に見舞われるけど……。あと一歩でラボ送りになるところだったけど……。

 で、でも! リョウくんこうやって優しいし、ぼくのこと長く使ってくれるし!


 座布団のような充電器に座って、リョウくんの指示通り製品ページを開いた。読み取った文字列に、はっと青褪める。


「……リョウくん」

「何だ?」

「22シリーズ、生産終了……」

「げっ」


 滑り込みセーフで、リョウくんがバッテリーをいっぱい買ってくれた。リョウくんだいすき……!!

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