馬上から失礼します!
体育祭当日。晴天。
低気圧は俺の願いを聞き入れてはくれなかった。
団旗は雄々しく翻っている。後輩や書道部部長に感謝だ。こんな出来すぎな旗を見上げてながら、夏休みの工作の宿題で親に手伝ってもらった木の模型の船を思い出していた。
先生にめっちゃ誉められたなぁ。船体を油絵具で塗る位しか俺は作成していないのだが。でも少しは努力はしたんだよ。親がケチで、近くの材木屋さんに木材を貰いに行けって言われて貰いに行った位の努力はした。気まずさはあの頃と同じ。しかし今は誰にも誉められはしないのだが。
あの旗は将来高値が付くに違いない。
そう言えば、書道部部室で、行灯袴を着た女子部員達が何かやっていたなぁ。集団を視覚で長時間認識するのを、俺の脳が拒否しているので、聴覚でぼんやりと記憶しているが
なんだったかなぁ…。書道ぱほます?
呪文のようだ。その群れ中で羊飼いに飼われる羊達のリーダーのように先頭になって動いている奴がいた。
俺はそいつを思い出していた。
校舎の垂れ幕に『全国高等学校書道コンクール二位 守人サキ』と書かれていた事を。
『共生』と達筆な筆で書かれた旗。『強制』の間違いだろ…
そんな旗を心の中で悪態を付きながら、ぼっーと俺は弱々しくくすんだ目で見詰めていたがしばらくして、グラウンドを見渡し帰る動線を考えていた。ああ帰りたい。
「「頑張ろうなっ!」」
騎馬戦を創作した奴のブログがあったならアンチとして叩きたい!俺の家系は由緒正しき小作人なのだ。何故刃物を持った河童頭の真似なぞせねばならぬのだ!
普段全く喋らないサッカー部活のゴールキーパーのロン毛と、野球部のキャッチャーのギョロ目が祭りに当てられたのか下から話掛けてくる。
「うむふぅ…」
うんと言いたかったのだが、普段クラスメイトと会話してないせいで、を噛んでしまった。こんな超短い言葉を噛むって…
「コウちゃん頑張ってー!」
まさか…
放送設備の設置してあるテントから声が聞こえる。
目立つ!目立つ!生徒会長!今日もお綺麗ですね。でも自嘲して欲しい自分の影響力を自覚して欲しい。
ゾクッとする。腕を見てみると鳥肌が立っている。応援は嬉しいが…只でさえ殺気だっていた対戦相手達全員から冷凍ビームのような視線の終点が俺に集まるのを感じるのですが…気のせいであって欲しい。凍える…震えが止まらない。
これはやるか、やられるかだ!
俺は騎馬戦を舐めていた。アイツらは俺をとり(殺し)にきている。
体育祭の騎馬戦の練習を汗くさい柔道場で行った。格技室…嫌な記憶しかない。校則違反をしていないかの身体検査もあの場所でしたなぁ。汗臭い剣道の授業も。汗臭い柔道の授業も。
練習段階で、人差し指はつき指し、組み合った相手の爪で手の甲は赤くみみず腫れしていた。のら猫かお前らは!
本番はこんなものでは済まされなそうだ…
――脳の誤認識なのだろうが、時間って止まるものだと初めて感じた。肉体の痛みと共に。
始まった瞬間。
脳の誤認時間が凍結されたようだった。
俺は宙に浮いていた。
弱い騎馬は吹き飛ばされる。鉢巻を取るとか取られるとかのレベルでは無かった。
地面に叩きつけられゴロゴロと痛さを分散させるように転がる。しかし砂で余計痛かった。
見上げると砂ぼこりの中闘いは中盤戦へ移行していた。俺は序盤で瞬殺された訳だ。戦国時代に生まれなくて本当に良かった。
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