昔好きだったヒト
家はいい。ほとんど喋らなくていいから疲れない。しかし、その弊害もある。連休があったものなら休み明けの日の国語の授業の音読は日本語がおぼつかない人になってしまう。喋り方を忘れている。ただ漢字を知らないっていうのもあるが。
だってしょうがないじゃないか!ボウキャクするんだ。短期記憶領域が狭いんだ。あれ?ボウってどんな感じだったっけ…んーあっ!鍋がなくなるこころって覚えてたっ!
いつものようにベッドの上で猫と遊び、スマホで小説を読むそんな休日を過ごしていた。そんな日々を送っているから。とっさに出た言葉が猫語になるのだ。
ピンポーン
チキン(パティ)は逃げた。逃亡先は定位置押入れの中。この間は玄関に直行してたのに、そういえば、元気な横縞半袖お兄さんが来た時は直行していますよね?
「はぁーい!」
今日の第一声だ。
今日は他の連中はいない。妹は友人の家に、母は友人と食事に。遊ぶ友人がいない俺は、家に…ほっとけ!
「なんだ…誰かの荷物か?時間指定考えてよ。昼だよ昼!」
グチグチ文句を、いいながら玄関へ。
いつものようにドアスコープから鳴らした相手を確認と同じく念のためロックしていなかったサムターンを音が鳴らないようにそっと回し。チェーンロックも倒す。
俺もチキンなんでね…。覗きみると。宅配便のいつもの元気な横縞半袖お兄さんではなく。
顔見知りの女子だった。
「隊長…」
「リョウタいる?」
(第一声がそれか…無礼な奴だ)
「いないけど?」
「嘘ついてないでしょうね!」
嘘かぁ。そう言われると、ひねくれている俺は、無理にでも嘘を創作したくなるじゃないか。嘘に嘘を重ねるって奴?違うか。
怒髪の女子は怖い。最近の俺、女子に怒られてばっかなんだけれど、何か悪い事しましたか?神様…優しい女子に出会わせて。
「俺は逃亡犯を匿ったりしない。自首を進めるね。犯人蔵匿罪(はんにんぞうとくざい)に成りたくないからね」
「は?大江君…相変わらずだね。勉強出来ないのに、変な知識はあるよね」
(何なのこの子さっきから悪口しか言ってないよね。勉強出来ないは本当に余計…事実だが…)
「また痴話喧嘩? ややこしい事はよそでやってくれるかな?犬も食わない。猫は食うのか?もってなんか俺が犬側の人間だったら、なんか癇に障る。てか近所迷惑だし、と言う事でサヨウナラ」
(お隣には最ややこしい先輩もいるのだ。この様子、女子ともめてるようにしか見えない見つかったら面倒事になる…)
ドアを閉めようとすると。
ガッ!
手首を、強く掴まれた。
(俺、手首を掴まれること多くないですか?怖いんですけど、護身術習いに行こうかな…ウェイブがいいかな…あれは暗殺術か)
「は?まだ聞きたいことあるんだけど」
「まぁまぁ、冷えたお茶のペットボトル持ってくるから、飲んで落ち着いたらすぐお引き取り下さい」
「ふざけないで!こっちは、真剣に言ってるの!」
「…」
今リビングにいます。
話があると、彼女は、ずかずかと家に入って来ました。俺の手首を持ったまま…。
(あなた連続でレインメーカーするオカダ・カズチカですか?)
「私見たの!大江君とスーパーモデルみたいな女子がイチャイチャしているのを!」
(朝の登校の時かぁ…)
「あの女子って、 上敷領 アイナ だよね? 付き合ってるって噂あるけど本当?」
「ええ…まぁ」
「本当なんだまだ信じられない大江君と…」
(ほっとけ!)
「でマジで何しに来たの?お帰り下さい」
「彼女に言って欲しいの!リョウタを振るように!」
「はぁ?」
「リョウタはあの上敷領 アイナが好きなの!それが原因で距離置かれてるの!私たち!でも私諦めがつかなくって…よりを戻したいの!会って話したいんだけどラインも既読無視だし、携帯にも出てくれない」
(話長いなぁ…痴話喧嘩は大気圏外でやってくれ)
「それで家に、来たの?あいつの家に行けばいいじゃない?」
「行ったわ!でもいなくて。出掛けてるってお父さんが」
「で家に来たの?」
「うん」
「俺からは、言えないよ。そんな事。先輩は今忙しくしているし。そんな他人の恋愛に首を突っ込むようなことに巻き込みたくない」
「へー…」
(なんのへーだ )
「意外だなぁ。あのヘタレの大江君がそんなカッコいい事言うなんて…そんなに好きなんだ彼女の事」
(好きというか過去にお世話になってたお姉ちゃんなのでね)
「わかったわ!私自力で寄りを戻す!変な事言ってごめんね!じゃあね!」
勝手に悩んで勝手に結論を決めやがった。やはり体育会系の思考は分からない。
嵐が去るように、彼女は帰って行った。
何の時間だったの?ただ、ただ疲れました。
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