ひまわりと白ワンピ《発売記念SS》
ジリジリと照り付ける太陽の下、俺は
誰かを、探している。
暑い暑いと額を濡らす汗を拭いながら、辺りを見回して。
「どこ行ったんだよ……」
誰を探しているのかもわからない。これは、暑さのせいか?
唯一覚えているのは、そいつが白いワンピースを着ているということだけ。
探していると、段々意識が遠くなっていって。
そうか、わかった。これは、夢だ。
「――いさんっ!」
夢だと自覚してから目覚めるまでには時間はかからない。
横になっている俺の上に
「やっと起きたー! さあ早く支度して!」
「支度……? つーか降りろよ……」
「もぉ仕方ないなぁ、っしょと。ほら、早く着替えて!」
「だから、どこに行くんだよ……」
七葉は鼻息をフンフンと荒くして、「よくぞ聞いてくれた!」みたいな顔をしている。せっかくの休日だし、外は暑いから、できれば出たくない。でも俺の事情を七葉が考慮してくれるわけがなくて。
「内緒! いいから私についてきてよ!」
とまぁ強引に俺の休日は七葉に邪魔される羽目になる。別にいいけどさ……。
七葉に急かされながらも身支度を済ませてアパートを出る。
最寄りの駅から数十分電車に揺られて着いた場所は。
「
「そっ! 夏だよ? 向日葵見なきゃだよ!」
そのお前の常識に俺を巻き込むなよ……。
「友達と来ればよかったんじゃねぇの?」
そう言うと七葉は頬を
「今日はみんな都合が合わなかったの。だからしかたな~くお兄さんを連れてきてあげたんだよ?」
「帰る」
「ちょちょちょ! お兄さ~ん、冗談だって~、にっしし~」
にっしし~じゃねぇよ。まあどうせ家に居てもぐうたら過ごすだけだろうし、せっかくだから色々見て回るのも悪くないか。
俺は諦めて七葉の隣を歩く。
公園はかなり広く、一度はぐれると合流するのが大変そうだ。そして、その条件が揃うと、俺を
「お兄さん、ここ広いよね? 手、繋ぐ?」
予想通り。そんな見え見えな揶揄いに、俺が
「でも人はそんなにいねぇからな。はぐれる心配はないだろ」
手を繋ぐこと自体を恥ずかしいとは思っていないような断り方をした。これで俺を揶揄える材料も潰す。どうだ!
「えいっ」
「ん?」
手になにかが滑り込んでくる。これは……手。
白くて細い指が俺の手に絡みついてくる。これは手だ。七葉の。
「ってなにやってんだよ⁉」
「え、なに。お兄さん女の子と手繋いだことないの?」
「はっ、ある! あるよ! だから別に恥ずかしくなんてないんだからな!」
「ぷーっ! 恥ずかしくなんてないんだからな! ってなに? ツンデレってやぁ~つぅ~? にっしし~」
口を押えて必死に笑いを
このまま手を離すとなんだか負けた気がするから、そのまま手を握ることにした。
七葉の反応を横目で見ると、呑気に鼻歌を歌いながら歩いてやがる。緊張なんて一切感じられなくて、なんか負けた気がした。結局負けるのかよ。
公園の中を歩くのは大半がカップルで、みんな手を繋いで歩いている。そこに混ざって歩く俺たちの手も、繋がれているわけで……。
やっぱりこれってまずくないか? 七葉は未成年だし、通報でもされたら……。
「あれ、お兄さん恥ずかしくなって離しちゃった~⁉ そうなんだよねぇ⁉」
「ちげーよ。周りに勘違いされるだろ。ただでさえ周囲はカップルだらけなんだからな」
「とか言い訳して、じ~つ~は~⁉」
「あぁもううぜぇ!!」
その後もこの調子で散々揶揄われた。俺がどう抵抗したって、結局無駄になるってことがわかった。収穫だ。あれ? 負けること前提?
広い花博公園を
「わぁ~! 見て見てお兄さん! まっ黄色だよ!」
向日葵畑は辺り一面に黄色く咲き、夏の暑さなんて忘れさせてくれるくらいに綺麗で。
「あれ、七葉?」
向日葵畑に視線を奪われていて、いつの間にか七葉を見失ってしまった。
「七葉!」
呼んでも、返事はない。
辺りを見回してから、
いつか感じたような感情、どこかで見たような景色、誰かを探していて。
「ああ、夢の……」
呟いた時、背後から声がかかる。
「お兄さん!」
七葉がいる。振り返った先にいた七葉を見て、すぐにわかった。
今朝の夢で俺が探していたのは――。
そっと心地いい夏風が吹きあがり、七葉が着ていた白いワンピースが揺れた。
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