ストーカーとベランダ②
木曜日。学校では誰も私の置かれた状況など知らず、いつも通りに接してくる。
私がお兄さんと援助交際をしていると、疑われていることなど、誰も知らない。
だから態度を変える人ももちろんいないのに、
「
元気がないのは事実だけど、誰かに気付かれるほど私はわかりやすくはない。
「堀川くん、メガネ変えたんだね?」
「えっ、あ、う、うん」
昨日、お兄さんが言っていた。
『お前の部屋を覗いているやつがいた。そいつが落としていったけど、見覚えあるか?』
渡されたのは黒縁のメガネ。
最初見たときは全く気づかなかったけれど、今こうして堀川くんを見て気付いた。
あれは、堀川くんのものだ。
「なんで変えたの?」
お兄さんに追われて、落としてしまった。それが本当の理由だ。でも、そう答えるわけもなく。
「壊れちゃったから、変えたんだよね」
明らかに焦っている堀川くん。
堀川くんが私の部屋を覗き込むって、なんでなんだろう。目的がわからない。
堀川くんが私の部屋を覗いていた犯人だとして、だったら学校のポストに写真を入
れたのも堀川くんなのか、その確信はまだない。
なにか、証拠があれば。
***
金曜日。明日は七葉の処分が決まるらしい。
俺にできることはもうないだろうか。できることは全部やっただろうか。まだ、なにもしていない。
そもそも俺にできることなんてないんじゃないのか。
疑われてるんだから、何もしないのが最善策なんじゃないのか。
でも、あいつが頑張ってるのに俺が何もしないままでいいのか。いいわけない。なにか、しないと。
「今日は七葉ちゃんきてないんだね」
二人は七葉みたいに毎日来ているわけではないが、週に一度は来ている。
二人とも明日は休みだからと、一緒にお酒でも飲もうと集まった。でも、そこに七葉はいない。
そのことを疑問に思った葵が、少し火照った顔で俺を見て。
「忙しいんじゃねぇのか」
この二人のことは信用している。他言することなど確実にないと言っていいだろう。
でも、あのストーカーが辺りにいるかもしれないこの状況でそんなことをするわけにもいかない。
だから、二人には説明できていない。
「七葉ちゃん来てねぇとなんかつまんねぇな~。
「ここは俺ん家だし、あいつはただの隣人だ」
純はどうやら七葉と相性がいいらしく、いつも楽しそうに話しているのを見る。なぜかそれをみてモヤモヤすることがあるが、あれはなんなんだろう。
「私七葉ちゃんに連絡しよーっと」
お酒が入っていつもと少しテンションの違う葵が、スマホを操作し始める。七葉にLINEでも送るつもりだろうか。
別にそれくらいなら問題ないだろうと思っていたんだが……。
「あっ、もしもし~」
「ってなにやってんだ!」
すぐに葵からスマホを取り上げた。が、画面は真っ暗で何も映っちゃいない。電話なんて、かけていなかった。
「ふっへへ~、れんたろー必死だね~。七葉ちゃんとお電話するのは照れまちゅか~?」
「う、うぜぇ……」
だから嫌なんだ、葵にアルコールを与えるのは。
酔うとこいつほんとめんどくせぇんだよな。七葉が可愛く思えるくらい。
「ダメだよれんたろー。ちゃんと、思いは伝えなきゃさ~」
「うるせぇな、酔うほど呑むんじゃねぇよ」
それに、思いを伝えるってなんだよ。
それじゃあまるで、俺があいつを好きみたいじゃねぇか。
「蓮太郎、葵は責任持って俺が連れ帰るよ」
「頼んだ」
酒が入ると葵は世話の焼ける妹になる。
そしてなぜか、そうなると純が責任感を発揮し始める。
「ほんとお前ら、良い関係だな」
いつの間にか眠ってしまっていた葵を背負った純は、荷物を持ち振り向くこともなく言う。
「蓮太郎、七葉ちゃんとなんかあったか?」
「……は、な、なんでだよ」
「ばーか。何年一緒にいると思ってんだよ。俺だけじゃないぜ、葵も気付いてる」
「……」
何に気付いてるのかは言わない。言わなくても、わかっている。そう言っているようで。
「これだけ言っとくぜ。後悔すんなよ、親友」
ドアの向こうに消えていく純の捨て台詞に、少し思うところがあった。
このままなにも行動しないままでいいのか、そう自分に問いかけて、答えを探す繰り返し。
違う。純が言いたかったのは、これじゃない。
「はっ、クッセェ台詞捨てていきやがって。アホが」
答えを探すんじゃない。
純が言いたかったのは、後悔しない選択をしろ。そういう意味だ。
俺は、俺がしたいことをする。
待ってろ、七葉。
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