第25話 そして修学旅行の夜には恋人が集まる。

               ◇◇◇◇◇


 あれからトランプや花札で三時間ほど遊んで、夜もすっかり深まって。そろそろ解散にしようかという話になり、俺は亮と二人で自分の部屋に戻った。


 楽しい時間はあっという間ではあったが、やはり疲れは溜まっていたようで、もうかなり眠い。


 俺は目を瞑ればすぐに眠りにつけるだろうと感じて、電気を消しベッドに身を投げた。

 目を閉じて次に開けたときには朝になっているのだろうと、そう思いながら。



 ――ゴンゴンゴンッ。



 誰かに扉を叩かれているような音が聞こえて、でももう少しだけ寝かせてくれとそれを無視する。



 ――ゴンゴンゴンッ。



 音は鳴り止まない。まるで寝坊している生徒を起こしに来た先生が叩いているかのように、執拗なまでにしつこい。



 ……ん?



 寝ぼけた頭を一瞬空っぽにして、それから思考が回り始める。


 嫌な予感がする。


 今は何時だ?


 枕元に置いてあるスマホを手に取り、画面を付けると二時十三分と表示された。

 



 …………って、二時⁉ いやいや、さすがにいくらなんでも、そんな昼過ぎまで眠っていたなんてことがあるはずはない……よな?



 隣では亮も爆睡していて、扉の音に気が付いているのはどうやら俺だけの様子。


 俺は猛ダッシュで扉まで行き、少し荒っぽく開けた。


「そうくん。ごめんね、こんな遅くに」

「へ?」


 部屋の前に立っていたのはかおりで、彼女の「遅くに」という言葉に気が抜けて、マヌケな声が漏れ出てしまう。


 そういえば昼の二時過ぎなら、スマホには十四時って表示されるよな。うん。

 なに一人で焦ってたんだよ、俺は。


 大きくひとつ深呼吸をして、俺はかおりに問いかける。


「それはいいけどさ。どうしたの? こんな時間に」

「いや、なんか眠れなくてさ」

「そ、そうなんだ」


 いや、眠れなくてなんだよ! 「一緒に寝たいな」みたいな、そういうことなのか⁉ っていかんいかん、深夜の寝ぼけテンションでハイになっていやがる。


「うん。だからこの部屋で寝てもいいかなって」


 なっ⁉ かおり、大胆! 


「お、俺はいいけどさ。でもこの部屋亮もいるし――」

「――なら俺はすずの部屋に行くからお好きにどうぞ。藤宮、キーカード渡されてるだろ?」

「えっ……あ、うん」


 いつの間にやら起き上がっていた亮がかおりからキーカードを受け取って、目を擦って欠伸をしながら部屋を出ていく。なんだか、気を遣わせてしまったみたいで申し訳ない。


「じゃあ、どうぞ」

「お邪魔します」


 とりあえず部屋に入ってもらって俺のベッドに座らせたが、話すことがない。


「えっと、じゃあ亮のベッドに俺が寝るから、かおりは俺のベッドを使っていいよ」

「一緒に寝ないの?」

「え?」


 上目遣いのかおりに見惚れながら、かおりの言葉にまた素っ頓狂な声で聞き返してしまった。


「一緒に寝ないの? 寝るよね? 寝るの!」

「なんの三段活用だよ!」


 いつになくグイグイくるかおりに腕を引っ張られて、無理やり同じベッドに引きずり込まれる。


「まったく、私はそうくんと一緒にトランプとか花札をして遊びたかったのにさ! 一回も同じグループにはならないし、そうくんは佐藤さんたちと楽しそうにしてるし」

「あー……」


 心当たりがありすぎて、言葉に詰まってしまう。


 と言うか、普通に考えて彼氏が他の女の子と楽しそうにしていたら嫌だよな。まったく、修学旅行で浮かれていたからって、俺も本当に学ばない奴だな。


「まあ? 私はそうくんの彼女だし? 別にいいけどね!」

「……」


 かおりに何も言い返せない自分がもどかしい。「拗ねているかおりも可愛い!」とか思ってしまう自分にも少し苛つく。


 言葉じゃ駄目なんだ。こういうことは態度で、行動で示さないと。


「ごめん、かおり。……おやすみ」

「…………おやすみ」


 シングルベッドに背中合わせで、彼女の温もりを背中に感じながら、もっと大切にしなくちゃと強く思った。

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