第9話 そして三人目の転校生はやってきた。(1)
◇◇◇◇◇
「なあ、聞いたか? 例の転校生、今日来るらしいぞ?」
「いつまでその噂信じてるんだよ」
そんな会話を亮としていたのが、つい三時間ほど前。
三人目の転校生の噂を初めて聞いてから今日でちょうど一週間が過ぎ、今回はただの噂に過ぎなかったのだとみんなが思っていた矢先に、彼女はやってきた。
彼女とはいっても、朝、本当に転校生が来たと話題になった時点では彼女が彼女だということも知らなかったのだが、とにかく、三人目の転校生の噂は本当で、ちょうど四組の佐藤のクラスに来たという話だった。
「そういえば転校生の話、本当だったんだよね。佐藤のクラスに来たって聞いたけど、どんな奴だった?」
「うーん……運動神経がよさそうな子かな。可愛いから男子も大盛り上がりだったよ」
先週から普段の四人に佐藤も加えて、五人で修学旅行のことなんかも時折話しながら昼食を食べている。今日も今日とて雑談に興じて、ちょうど転校生のことを話題にだした、そんなタイミングだった。
噂をすればなんとやら。昼食風景の中にすっかり美少女化した佐藤がいることですらまだ慣れていないというのに、それ以上に新鮮な光景が突然、教室の入り口から飛び込んできた。
「あ、いた。水瀬」
「…………え」
この高校に在籍している女子であれば全員が着ているであろうわが校の制服に、薄っぺらい胸、スポーティなポニーテール。
見間違えるはずもなく、つい先日会ったばかりの彼女が――日向が、教室の入り口に立っていた。
「あれ? どうしたの水瀬くん。もしかして日向さんと知り合い?」
「……うん」
何も知らない佐藤が、不思議そうに首を傾げる。いや、佐藤だけじゃなく、亮と中野さんもはてなマークを頭上に浮かべて、俺に視線を送ってくる。
「……むぅ」
一応は日向を知っているかおりは、不満に満ちた仏頂面だ。
「えっと、転校生って日向だったのか」
「うん。まあね」
「うちの高校に転校してくるんだったら、連絡くれれば良かったのに。っていうか、またなんで転校してきたんだ?」
とにかく俺と日向の関係の説明は後回しにして、ひとまず話を進める。
「えっと、それが……お父さんの会社の業績が悪化しちゃって、家計にも余裕がなくなったから私立は無理って言われちゃってさ」
「そうだったのか……でも日向、陸上で学費免除の特待生じゃなかったっけ?」
「それが私、ちょうどこの前、部活やめちゃってさ。学費免除もそこで止まっちゃったんだよね」
「そっか……」
なんだか思っていたよりも重い話に、思わず言葉が詰まった。
簡単に言っているようだけれど、中学のころはずっと練習漬けで、誰よりもストイックで、将来は陸上で食っていきたいとまで言っていた日向が部活をやめただなんて信じられない。
親の会社の話もだが、それよりも陸上をやめてしまったということの方が、俺には気になって仕方がなかった。
「そっ、それよりも日向さん、なにか用があってこのクラスに来たんじゃないの? 水瀬くんに転校のあいさつしに来たとか?」
佐藤が気を利かせて、明るい口調で話題を変える。
「あぁ、うん。そうだったそうだった。ちょっと水瀬に頼み事があってきたんだよ」
「頼み事?」
俺より先に反応したかおりに答えるように、日向は本題を口にした。
「うん。修学旅行、水瀬の班に入れてほしいんだよね」
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