第8話 そしてクラスの男子たちは教室で叫ぶ。

               ◇◇◇◇◇


 週も変わって気分一新、月曜日。


 教室では朝からクラスメイト達が雑談に花を咲かせている。


「それにしても良かったね、すずちゃん! サッカー部に入れてもらえて」

「うん。サッカー部の皆が亮を説得してくれたおかげでね」


 俺やかおりも例に漏れず、いつになく上機嫌な中野さんとそんな話をしていた。


「……そういや聞いたか? うちの学校に、また転校生が来るかもって話」


 唐突に、亮が話題を変えて俺に話を振ってくる。


「いやいや、さすがに一年で三人も来ないでしょ」

「まあこのクラスにはもう来ないだろうけどよ、サッカー部の友達が職員室で先生たちが話してるのを聞いたらしくてさ」

「ふーん……」


 この学校、どんだけ転校生に人気なんだよ。


 その話が本当かどうかは分からないけれど、もうこのクラスだけで今年に入ってから二人も転校してきているんだ。こっから一人や二人増えてももう驚かない。いや本当にこのクラスにまたきたりしたらそりゃ驚くけども。


「そんなことよりさ、修学旅行、どこを回るか早く決めちゃおうよ。私もそうくんも小春ちゃんも、京都が良いなぁって話にはなってるんだけど、とりあえずおおまかには二人もそれで大丈夫?」


 特に続きもしなかった亮の話はそんなことと捨ておいて、かおりが来月に迫った修学旅行に話題を変える。


「俺はいいよ」

「うん。やっぱ修学旅行って言ったら京都でしょ。私もオッケーだよ」


 全員一致で自由行動は京都に決まり、細かい予定は授業内で時間があるので、そこで考えようという話になった。


「おーいお前ら、席に着けー」


 チャイムが鳴ると、いつものように気怠さ全開の担任、木本があくびをしながら教室に入ってきた。


「ねぇ、そうくん。先生、本当に転校生連れてきてたりしないよね?」

「ないない。来るとしたって別のクラスでしょ」

「そうだよねー」


 すぐ隣に座るかおりと、ひそひそと会話を交わす。まだ隣を見るとかおりの横顔があるという席順は慣れない。


 なんだか会話の中でさらっとフラグを立ててしまったような気もするけど、それはきっと気のせいだろう。


「えー、今日はお前らに紹介しなきゃいけない人がいるので来てもらった。どうぞ、入ってください」


 クラスの皆も転校生の噂は耳に入っていたのか、木本の言葉を聞くと一斉にざわつき始た。


「ねぇ、なんかそれっぽいよ、そうくん」

「……いや、さすがにない……よね?」


 木本に呼ばれて教室に入ってきた人物に、自然と目が吸い寄せられる。



「はじめまして――」



 田舎の高校生とは思えない茶色のロングヘア―に大人っぽい整った顔つきで、すらっとスレンダーな大人っぽい女性。



「――修学旅行でこのクラスに同行させていただくことになりました、田中たなかと申します。当日は皆さんの良い思い出となるよう、精いっぱい楽しみましょう。どうぞよろしくお願い致します」



 それは文字通り、大人の女性――おそらくバスの添乗員さんだった。


「……びっくりしたけどほら、やっぱり違ったよ。そういえば先週、なんか言ってたし。一回ガイドさんを連れてくるって」

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたかも」


 別になにかが心配だったわけではないけれど、かおりと二人してそっと胸を撫でおろす。あえていうのであれば、もしもこのクラスに三人目の転校生なんかが来てしまっていたら学校の在り方が心配というか、そもそも中野さんが来た時点でお金の力がなんたらかんたらで心配というか完全にアウトというか。


 クラスの男子たちも反応は俺たちと同じようで、数秒間、口を開けたまま呆けていたが、それから一斉にガッツポーズをしながら「うぉおお!」とか「よっしゃぁあああ!」だとか叫び始めた。



「えっと、話を続けても大丈夫かな……?」


 少し困惑気味のガイドさんに、男子たちは「大丈夫です!」「どうぞ続けて!」とすぐさま反応する。


「でも良かった。なんかフラグ立てちゃったかと思ったよ」

「まあ別に、転校生がまた来ても悪いことはなにもないんだけどねー」


 ガイドさんの話は耳に入らず、かおりとそんな内容のないことを話していた俺が、別のクラスに転校生が来たことを知ったのは、翌週のことだった。

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