第7話 そして幼馴染の彼は目を逸らした。
◇◇◇◇◇
「なぁ、昨日も中野さんは亮の部屋に行ったのか?」
「なっ⁉ お前、なんで知って――」
「――ってことは行ったんだな」
かおりと同じ部屋で起きて、同じ食卓で朝食をとり、そして二人で仲良く登校してきた俺は、朝の教室で亮を見てにやりと笑う。
「おい! すず! お前余計なこと言うなよ!」
「余計なこと? 何のことだか分かんないけど」
亮はかおりと何人かの女子の輪に入っていた中野さんをキッと睨んだが、適当にあしらわれた。
中野さんは人見知りだそうだけど、かおりがいるということが大きいのか、意外にももう女友達ができていた。
「(それで、どうなんだよ。実際のところ)」
「(ど……どうってどういうことだよ)」
「(とぼけるなって。可愛い幼馴染が毎日のように部屋に遊びに来てるんだろ? それで何もないっていう方がむしろ不健全だろ)」
毎日のように家に来るお隣さんの幼馴染のことをすっかり忘れていた俺が言うのもなんだかなぁ、という感じではあるが、まあそんな俺も結果的にかおりと付き合っているわけだから、何かはあるべきなんだろう。
しかしそんな考えは間違っているとでも言いたいのか、亮は大きくため息を吐く。
「なんもねぇよ……」
それから、「なんかあったらあの親バカに殺されるしな」と付け足して俺から目を逸らした。
「お前、それって――」
その中野さんの親父さんのことを抜きにしたらどうなんだ。と、そこまでは聞かないことにした。
亮の横顔は、いつにもまして真面目なものに見えた。
「――中野さんさ、確か亮は自分の気持ちに気づいてないんじゃないかって言ってたよね?」
学校からの帰り道で、手を繋いで駅前を歩きながら、かおりに話を振る。
「ん? うん。下田に行った時も言ってたよ。泊まりの旅行にまでついてくる幼馴染からの好意に気づかないなんて、神木くんも鈍感すぎだよね」
「いや、たぶんそれ中野さんの勘違いだと思う」
「え? そうなの? じゃあ両想いってこと?」
呆れ顔になったり驚いた顔をしたり、表情を忙しなく変えるかおりに思わず頬が緩んでしまう。
「……それはまだ分からないけど」
少なくとも、俺から見たら十分に脈はあると思う。
でもなんで亮が中野さんに黙ってうちの高校に入ってきたのか、それが分からない。
気にもなるし本人に聞くのが一番手っ取り早いと言えばそうなのだが、これに関しては亮と中野さんが二人で解決するべき問題な気もする。
「まあ、見守るしかないのかもね」
「そうだね。あ……」
二人して意見が合致したところで、何かを思い出したようにかおりが声を漏らした。
「そういえば昨日見損ねた映画見ないとじゃん! 今日見よ! 今日もそうくんちに泊まるから!」
「いや、さすがに二日連続っていうのは良くな――」
「大丈夫! お母さんにも今メッセージ送るから!」
いや、そういう問題……なのか?
急にはしゃぎだしたかおりは「ほら!」とスマホの画面を俺に確認させて、送信を押す。
「了解だって!」
すぐにきた返信をかおりは嬉しそうに見せてきたが、画面上にはやや長めな文が映されていた。
『了解。茜ちゃんもお母さんもいるんだから、あんまり夜中にうるさくしないようにね。軋むからベッドの上でははしゃいじゃ駄目よ』
「……………………」
最後に付け足されていたハートの目をした絵文字が、さらに俺の居た堪れなさを加速させた。
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