第16話 なぜだかお隣さんと食卓を囲む。(1)

「あぁー疲れたなぁ。もうくたくただよ」

「結構暑かったしね。でも今日勝ったってことは明日も試合あるんだから、ちゃんとストレッチとかしとかないとだよ」


 球技大会一日目の日程をすべて終え、その帰り道。


 もう家はすぐそこだというのに、二人そろって疲れきっているのでその足取りは重い。


 今日は二試合目もなんとか一点差で逃げ切り、二勝の成績で明日の決勝トーナメントに進むことになった。


 明日は別パートの二位のチームと準決勝をして、それに勝ったら逆側の勝者と決勝をすることになる。


 今日と同じく試合数は少ないが人数がぎりぎりなので、二試合とも出場しっぱなしになるだろうし、運営の仕事だって明日も忙しいだろう。 


 この出っぱなしの二試合が存外きつい。普段から多少トレーニングをしている程度の俺には、体力的にぎりぎり出られる試合数といってもいいかもしれない。


 まあそれでも、運営であちこち走り回ってさえいなければここまできつくはなかったとは思うが、そんなことを言っても生徒会なのだからどうしようもない。


「ねえ、そうくん。帰ったらマッサージしてよ」

「……いいよ。夕飯食い終わった後でいい? 今日は昨日より早く来てあんまり遅くならないうちに帰りなよ?」


 遅くに来てマッサージの途中で寝てしまうという昨日と同じパターンになることが何となく目に浮かんで、俺はかおりに物申す。


「あー、もうそっちに行くのも面倒だし、今日はそうくんが私の部屋に来てよ」

「別にいいけど……って、え⁉」


 マッサージをしてくれと頼まれたことに関してはまあ、昨日もしたしと了承したけれど、なんとかおりの部屋に招待されてしまった。


「じゃあ、夕ご飯食べてお風呂出たら連絡するから!」


 ようやく家の前についたところで、かおりは一方的にそう言って家へ入っていってしまう。


 女子の部屋にお邪魔するなんて、茜を除けば人生で初めてかもしれない。


 友達だってたいしていない俺がまさかあんな美少女の部屋にお呼ばれされるだなんて、かおりが転校してきたときには思いもしなかった。


 いくら俺が男子高校生とは思えぬ理性の塊だとしても、胸を高鳴らしてしまうのは仕方のないことだろう。


「ただいまー」


 あれ? でも――。


 昨日娘が泊まってきた家の男が、もし自分の家に来たらどんな対応をされるのだろう。


 自分がもしかおりの父親だったら、それはもう殺意のこもった視線をその男に向けること間違いなしだ。


「おかえりなさい、奏太。まだ夕飯までは時間あるから、先にシャワー浴びちゃってね」

「ん。了解」


 母さんにはうわの空で答えて階段を上り、部屋に戻る。


 そして大きく息を吐いてベッドに腰かけたところで、メッセージの通知音がした。


『お母さんたちが、夕飯もうちで食べれば? だって』


「……」


 送り主はもちろんかおりだ。


 家に行くってだけでもかなりの覚悟がいるって言うのに、夕飯を食べてけってどういうことだよ! 絶対親もいるよなぁ……。


 かといって断るのもそれはそれで得策とは言えない気がする。


 どうすればいいのか。


ピコン。


『もうお母さんには来るって言っちゃったから、お風呂入ったら連絡ちょうだい』


 頭を抱ええる俺に追い打ちをかけてきたメッセージを開いて、顔から血の気が引いていくのを感じた。

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