第15話 なぜだか球技大会の運営は忙しい。

               ◇◇◇◇◇


「――それでは皆さん、くれぐれも怪我だけはないように気を付けて、この二日間を楽しみましょう」


 茜が締めの言葉を言い終えて、生徒たちは体育館で解散した。


「茜ちゃんって生徒会長だったんだね」

「まあ一応ね。茜ってあんなんだけど、結構すごいやつなんだよ」


 女子ソフト部ではエースで四番だし、そのくせスタイルは良いし。顔だってごく平凡な俺に対してかなり整っている方だと思う。


 欠点を言うとしたら勉強が少しばかり苦手なところと、俺が高校に入りたての頃、茜とお近づきになりたい男子たちが俺に群がってきたことくらいだ。


 まあそいつらは全員名前と顔を覚えて、関わっちゃいけないリストとしてまとめたものを茜に渡してやったからいいのだが。


「おい奏太、置いてくなよ。俺だって同じチームなんだから」


 俺たちも人の流れに乗ってグラウンドへと向かっていると、後ろから亮が声をかけてきた。


「どうせグラウンドで集まるんだからいいだろ」

「それにしても本当に偶然だよね。私たち三人が同じチームだなんて」

「ほんとだよなー」


 三人でそんなことを話しながらグラウンドに着き、軽くランニングを始める。


 実際、偶然なのかどうなのか。


 確かにチーム分けは基本的にランダムで公平に決めているが、それだって生徒会なら改ざんできる。


 もしかしたら茜が俺に気を遣って、仲のいいメンバーで固めてくれたのかもしれない。

 まあこの三人が全員経験者だったりするわけでもないし、戦力としての公平性はなんら揺らいでいないので問題になるようなことではないんだろう。


「怪我はしないように、きちんとストレッチするんだぞ亮」

「うるせぇ。俺はお前と違って普段から部活で体動かしてんだから大丈夫だよ。つかそこ代われ」


 グラウンドを二周ほど走ったら、次はペアでストレッチ。


 地面に腰を下ろして、足を広げ後ろからかおりに押してもらう。


 俺たちは三人なので亮はあぶれてしまい、一人でできる伸脚をしたりアキレス腱を伸ばしたりしている。


 そんな亮を横目に『いちっ、にっ、さんー』と体全体を乗っけるようにして体重をかけてくるかおり。

 俺はそれに合わせて息を吐く。


 開脚をした状態で右に左に正面に。それが終わったら足の裏を合わせる胡坐のような格好になって、股関節のストレッチだ。


「かおり、そろそろいいよ。交代しようか」

「うん!」


 かおりがあまりにも体重をかけて乗っかってくるせいで彼女のささやかなお胸が背中に当たっていたが、これ以上続くと顔でお湯が沸いてしまいそうなので押し手を代わる。


「昨日のマッサージのおかげか筋肉痛もだいぶ良くなったよ」

「本当? そうくんもマッサージ上手だったよ?」


 そんなことを言われると、昨日の桃尻の柔らかさを思い出してまた顔が熱くなってしまう。


「そうくん? なにか変なこと考えてない?」

「そ、そんなことないよ。ほら、押されたら息吐いて体を前に倒すんだよ」


 ごまかすようにストレッチに精を出す俺を見て、亮は無言でなんともむかつく笑みを浮かべていた。


               ◇◇◇◇◇


「いやぁ、最後の打球よく捕ったよな。まさか球技大会で飛び込むとは思ってなかったけど」

「……俺だって飛び込むつもりなんかなかったよ。たまたま体が反応しただけでさ。それより亮のあのエラーはひどかったな。あれがなければ俺だって飛びつかずに済んだのに」

「しょうがねえだろ? 俺は野球系に関してはまったくの素人なんだから」


 球技大会での初陣をぎりぎりのところで勝利で終え、ドリンクを飲みながら試合を振り返る。


 ソフトボールのチーム数は六チーム。初日である今日は三チームごとに分かれての総当たり戦が行われる。


 人数の関係上、サッカーとソフトボールは男女混合だが、いいプレーをしたからと言って女の子にきゃっきゃと騒がれるようなこともなく、むしろ俺はチームの男子からもてはやされていた。


 まあ基本的に男女でキャッキャするような連中は皆、バスケの方へ行ってしまっているのでそれもそのはずではある。


「次の試合は午後だよな? 俺、サッカーの審判行かないとだから行ってくるわ!」

「あいよ。俺も生徒会の本部に行くから、またあとでな」


 三チームでの総当たり戦なので、今日のところ俺らの試合は二試合だけ。

その空いた時間で、サッカー部である亮はサッカーの試合の運営を、俺たち生徒会の端くれは本部の手伝いをしなくてはならない。


「あっ、奏太ちょうどいいところに。この子擦りむいちゃったみたいだから消毒してあげて」


 本部につくと、そこには膝を痛々しく擦りむいたクラスのお調子者――本田が座っていた。


 俺は茜の指示に従って救急箱からガーゼと消毒液を取り出して、本田に話しかける。


「傷口はもう洗った?」

「ん? あぁ水瀬か。とりあえず水では流したよ。俺消毒って染みるから苦手なんだよなぁ……」

「高二にもなってなに言ってるんだよ」


 いつもと違い、少しか細い声の本田に思わず苦笑してしまった。


「水瀬。優しく、やさしくなっ!」

「はいはい」


 思いのほかビビりの本田の言葉に適当な返事だけ返して、俺はガーゼを添えた患部に消毒液をこれでもかとぶっかけてやった。


「痛っ! いたたたっ! くぅ……やっぱ染みるぜ」

「まあ消毒だからね」


 オーバーリアクションで痛がる本田に、俺はなるべく平坦な声で返す。


「奏太! それ終わったらこっち手伝って! あとバスケの得点板、人足りてないからここが済んだらすぐそっちに回ってね」

「はーい」


 茜に次から次へと指示を出されて、俺は次の試合まで忙しなく動き回った。

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