第2話 なぜだか転校生の好感度が高すぎる。(2)
◇◇◇◇◇
「おい、奏太。お前藤宮と顔見知りだったのか?」
一通り授業を終えて、今週はトイレ掃除担当の掃除の時間。
隣の席の
「いや、今日初対面だよ普通に。第一、俺にあんな美少女の知り合いがいると思うか?」
「いるわけないか」
自分で言っといてなんだが、こいつに言われるとなんだかむかつく。
「でもじゃあ、なんで藤宮とあんなに仲良さげなんだよ」
「知らん。むしろ俺が知りたいくらいだよ」
俺の返答を聞いた亮は、はっ、と鼻を鳴らして俺から離れると、一通り洗い終えたトイレの床にホースで水を流し始めた。
「――ねえ、奏太って部活とかやってるの?」
トイレ掃除を終えて外に出ると、女子トイレを洗い終えて待っていたらしいかおりに問いかけられた。
「いや、生粋の帰宅部だけど」
「そっか。じゃあ、今日一緒に帰らない?」
「え? 別に俺は構わないけど」
亮の生暖かい視線を感じながらも、俺はなるべく平静を装って答える。
「よしっ、じゃあ決まりね! 教室で待ってるから」
かおりはそれだけ言って、軽やかな足取りで教室の方へ行ってしまった。
「おい、なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言え」
真横からの視線に、俺はぶすっと指摘する。
「いや、やっぱりお前ら、ただならぬ関係だな」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべる亮に、俺ははっきりと気持ち悪いぞと伝え、それからゆっくりと教室に歩き出した。
◇◇◇◇◇
「そうだ。私の転校祝いにファミレスにでも寄ってかない?」
学校から駅へと歩きながら、かおりが急な提案をしてきた。
「いや、転校祝いってなんだよ。別にめでたいことじゃないだろ。あと、奢らせる気満々じゃねえか」
俺は今日一日で随分と仲良くなった彼女に、遠慮なくツッコミを入れる。
「あれ? バレた?」
お腹空いちゃって~、と笑うかおり。
悔しいが可愛い。奢ってやらんこともないと思わされてしまうほどに。
「ま……まあ俺もちょっと小腹空いてるから、駅の中のサイザリアにでも行くか」
「え? ほんとに? やった~奢りだ~」
……現金な奴め。
まあサイザリアなら安上がりだし、この笑顔、五百円と言ったところだろう。悪くない。
そうこう話しているうちに駅にも着き、俺達はその中にあるサイザリアへと向かった。
「二名様ご案内でーす」
店内に入ると店員にピースサインで人数を伝え、空いてる適当な席に腰をおろす。
「決まったら言って。俺はもう決まったから」
「私ももう決まってるからいいよ」
「じゃあ店員呼んじゃうよー」
俺と同じく何を頼むか即決したらしいかおりに一言言って、俺は呼び出しベルを押した。
しばらくすると店員がやってきて、ご注文を伺いますと話しかけてくる。
「アラビアータ1つと――」
「――ミラネーゼドリア1つ……それとあと辛味鶏肉を1つで!」
小腹を満たす程度の量だけ注文して、店員の注文確認にも大丈夫ですと頷く。
「そういえば、サイザリアのこの間違い探し、毎回全部見つけられないんだよねー」
「あっ、それは分かるかも」
店員が厨房へ去ったあと、かおりはメニュー立てから時間つぶし用の間違い探しが載っているキッズメニューを取り出して机の上に広げた。
「服の模様でしょ、トマトの数でしょ、あっ、スプーンの位置も違う!」
「あとコップの中の氷の数とカーテンの長さも違うよ」
「ほんとだ! あと五つか……」
それから五分もかからずに料理が運ばれてきて、あと二つがどうしても分からないという状態で今回の間違い探しは終了となった。
「やっぱ難しい……」
「まあ、すぐに見つかっちゃったら時間つぶしにならないしさ」
キッズメニューを片付けて、手を合わせて運ばれてきた料理に手を伸ばす。
うん、うまい。やっぱりここのアラビアータ、おいしいんだよな。
ぱくぱくと夢中に食べ進めていると、ふいに視線を感じた。
「それおいしい?」
「うん。サイザリアに来たら俺は毎回これ頼んでるかな」
「そっか。じゃあ一口ちょうだい。あーん」
「……ほら、好きなだけ食べていいから」
目を瞑ってかわいく口を開けたかおりをスルーして、俺は皿を彼女の方へ寄せる。
また惜しげもなくそんなことをしようとして。危うく惚れてしまうところだった。
「食べさせてくれてもいいじゃん」
ぷくっと頬っぺたを膨らまし、口先を尖らせるかおり。
破壊力抜群。シンプルにかわいい。
俺は照れを隠すようにそっぽを向いて、「自分で食べな」とだけ言った。
「ずっと気になってたんだけどさ――」
「ん?」
一通り料理を食べ終わって、疑問をぶつけようと口を開く。
「――俺たちって前に会ったこととかあったっけ?」
「え?」
「いや、だってさ、かおりとは今日あったばっかなのになんかやたらと話しかけてくるし、でも俺は俺でなんていうか今日あったばかりだとは思えないって言うか、懐かしい感じがするって言うか……」
なんともいえない。言葉では言い表せない。そんな感じ。
ただ一つ言えるのは、俺は人見知りだ。その人見知りの俺がかおりとは緊張もせずに初対面から話せているというのもどことなく引っかかる。
「っていうか――」
次の瞬間、そんな俺の思考を止めるほどの大声をかおりは出した。
「そうくん、ほんとにわたしのこと覚えてないの⁉」
突然立ち上がったかおりに、一瞬驚いて肩が跳ね上がる。
「え? それって、前にも会ったことがあるってこと?」
「知らない! 自分で思い出すまで私からは教えてあげないんだから! ふんっ!」
かおりは律義に五百円玉を机の上において、そそくさと帰り支度を始める。
「えっ、ちょっと!」
「その残り、そうくんの分だから!」
止めようとした俺にそんな捨て台詞を残して、彼女は足早に行ってしまった。
「そうくんって呼ぶなって……」
何がなんだか分からずそれだけ呟く。
静かになった店内で、俺はテーブルの上に残された二切れの辛味鶏肉とただ見つめ合った。
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