なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。

鞘月 帆蝶

1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。

第1話 なぜだか転校生の好感度が高すぎる。(1)

「えー、突然だが今日からこのクラスに転校生が来ることになった」

 

 例年より少し早めの梅雨入りが発表された朝、教室に入ってくるなり担任の木本きもとはそう言った。


「転校生?」

「高校に転校生なんて本当に来るんだな」

「かっこいい男子がいいなぁ」

「何言ってんだ! 転校生はかわいい女子と相場が決まってんだよ!」


 転校生というワードにいきり立つ生徒たちを見て、木本は眉をぴくぴくと動かす。


「おいお前ら、静かにしろよー。藤宮ふじみや、入ってきていいぞ」


 木本に名前を呼ばれ、廊下から歩いて教壇に上る転校生。


「ほら見ろ! かわい子ちゃんじゃねぇか!」

「おい本田ほんだ、黙れ」


 短いがさらさらな髪をたなびかせる美少女を見るなり大声を出したお馬鹿キャラの本田が、木本に軽くげんこつされて「ひぃっ」と間抜けな声を漏らす。


 それにしても――。


 ぱっちりと大きな瞳にすらりとした小さな鼻、薄めだが潤っているのが一目で分かるぷるんとした唇。本田が叫んでしまうのも仕方がないのではないかと思えるほどに、転校生の容姿は整っていた。


「親の都合で編入することになりました藤宮かおりです。これからよろしくお願いします」


 茶色っけのあるショートカットの彼女は短く自己紹介し、軽く頭を下げる。


「席は窓際の一番後ろが空いてるから、そこに座ってくれ。じゃあ、ホームルーム始めるぞー」


 木本は空席を藤宮に教えると、教卓に前のめりに寄りかかってそう言った。


「よろしくね」


 ん? 今何か話しかけられた?


 慌てて声の方向に顔を向けると、その先にいたのは小動物的な笑顔を浮かべた藤宮。どことなく懐かしいような、女子特有のいい匂いが一瞬鼻に入ってくる。


「あぁ、よろしく」


なんで急に話しかけてきたんだ⁉ 

っていうか男子からすごい抑圧的な視線を感じるんだけど……。


 気まずくなって、今日より窓際後ろから二番目の席に降格となった俺は窓の外に視線をやる。


「――ねぇ、教科書見せてもらってもいいかな? まだこの学校の、そろってなくて」


 一限が始まって早々にうしろから声をかけられた俺は、ホームルーム前よりも格段に弾圧的な視線に晒されることとなった。


               ◇◇◇◇◇


「そうくん、お昼一緒に食べない?」

「ん? まあいいけど。って言うかその呼び方なんとかならないの? 恥ずかしいんだけど」

「えー、いいじゃん別に」


 午前中の授業も終わって昼休み。

 俺はなぜだか、今日転校してきたばかりの美少女にやけに親しげに呼ばれ、そして彼女と食卓を囲んでいた。食卓とはいっても二つのくっつけた勉強机で、そのうえにあるのもお弁当なのだが。


「そうくんのお弁当、なんか可愛いねー」

あかね……姉ちゃんが弁当作るの好きでさ、そのついでに一緒に作ってもらってるから女子高生っぽい弁当なんだよ」

「ふーん……お姉ちゃんの手作りねー。ねぇ、じゃあ私のお弁当はどう? 女子高生らしい?」


 藤宮はぱっと自分の弁当箱を開けて、中身をこっちに見せつけるようにしてくる。

 中身は俺の弁当に負けず劣らず可愛らしく、ところどころに鮮やかな色がちりばめられているのはまさに――。


「女子高生らしいね」


 俺は思ったままにそう答えた。


 母さん世代が作る弁当となってくると、たいていが茶色系というかハンバーグ系の色というか、暗めの色でお弁当の大半が埋められ、空いた隙間にミニトマトが申し訳程度に入っているようなものが多い。


 それに比べて藤宮の弁当はまさに、若い人が作ったんだろうなと一目でわかるものだった。

 って、なんでこんなに弁当について熱く語ってんだ、俺。


「へへっ、そう言われるとうれしいなぁ。なんせ、早起きして自分で作ってるからね」

「すごいな。将来はいいお嫁さんになれそうだよ」

「えっ⁉ プロポーズ⁉ ちょっとそれは唐突すぎるというか、もっと順を追ってにしてからじゃないと受けられませんごめんなさい」

「いや、なんで告ってもないのに振られなきゃならないんだよ……」


 ひとつ溜息を吐いた俺を見て、藤宮は笑う。


「そうだ、どうせだからおかず交換しようよ。私、卵焼きには自信があるの」

「ほほう。それなら俺はこの冷凍タコさんウインナーをトレードに出そうかな」

「いや、手作りのにしようよそこは!」


 思いっきり突っ込まれてしまった。まあボケたのをスルーされるよりはいいんだけど。


「冗談だよ。じゃあ卵焼き同士で交換しようか」

「よし、商談成立だね。じゃあ、はい。あーん」

「……」


 俺の顔の前に「ほら、早く食え」とばかりに差し出される卵焼き。

 阿修羅のような形相の男子がこっちを見つめているのも忘れそうなくらいに鮮やかな黄色だ。


「あーん」

「いやいやいや!」

「ん?」


 なんで出会って数時間の美少女相手に、俺はこんなカップルのような状況になっているんだろう。したことといえば授業で教科書を見せてあげて、暇な時間に軽く自己紹介したり談笑したりとそれくらい。


 あ。もしかして。これが噂のモテ期というやつなのだろうか。いや違うか。


「……自分で食べるから大丈夫」


 俺は自分の箸で藤宮の弁当箱の中に残っていた卵焼きをひとつ摘まみ、いただくことにした。


「あっ……どう?」


 思ったよりも甘さは控えめで、何と言っていいのか一言で表すなら、懐かしい味。卵の中に刻みネギが入っているのは俺の好みにドンピシャだった。


「うまい。うまいよ! 姉ちゃんのよりうまいかも」

「ほんとに? そこまで言われるとなんだか照れちゃうなぁ」

「いや、本当に。これなら毎日でも食べれるよ」

「え⁉ 毎日俺に卵焼きを作ってくれって? もうそうくんったら、プロポーズはまだ早いって言ってるじゃん!」

「いや、だからそういう意味じゃないから! 自意識過剰だから! ついでにそのそうくん呼び、恥ずかしいから!」

 

 俺の名前は奏太そうただから! 


と最後に一言足して、突っ込みを終える。


「うーん……じゃあ、あたしのことも名前で呼んでくれたら、奏太って呼ぶよ」


 少し考えるようにした後に、藤宮は思いついたように言った。


「分かったよ。かおりって呼ぶから。それでいいだろ」

「うん。奏太!」


 満面の笑みで名前を呼んでくるかおりに、俺は苦笑する。


 いや、やっぱりおかしいって。なんで転校初日の美少女が、こんなに俺に笑顔振りまいてくるんだよ。

初期好感度高すぎだろ! いや別にいいけど! むしろうれしいけど!


 俺は余計な考えを取っ払って、無心で弁当を食べる。


「奏太~。奏太ってば~。そ・う・た!」


 ぱくっ。


「⁉」


 今の今まで箸で掴んでいたはずの卵焼きがない⁉


 視線を上げると、目の前にはもぐもぐと可愛く口を動かすかおり。


「……」

「まだ奏太の卵焼き、もらってなかったからね」


 彼女は無言で視線を送る俺に、どこか得意げに胸を張る。あまり大きくない胸を。


 俺は息を大きく一度吐いて、次の瞬間には窓の外に向かって無意識に叫んでいた。


「惚れてまうやろー!」

「いや、それ古すぎでしょ」

「……」


 クラス中から冷ややかな視線を浴びて、俺は黙って昼食を再開した。




※お知らせ※(2020.03.03 時点)

並行して連載していたラブコメが完結しました。よろしければ読んで頂けると嬉しいですm(_ _)m


『どこにでもあるありふれた幼馴染ラブコメ』

 先日完結した、ひたすら甘々の幼馴染一強ラブコメです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893748428


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