僕の実家

第五話 帰宅

「月城くんは春休みに何か用事ある?」

「バイト以外は無いよ」


 泉さんの問いに、僕が簡潔に答える。


「それなら、せっかくの春休みだし、君の実家とか言ってみない?」


 ええ!? 泉さんが僕の実家に!?

 それってもしかして……僕の両親へのあいさつ?


 いくら何でもそれは早すぎる気がする。

 僕たちは出会ってから半年もたってないし……


「何のために僕の実家に行くの?」


 恐る恐る、聞いてみる。


 はにかんだ笑みでも見せてくれながら、「月城くんのご両親にあいさつをするためだよ。そのくらい、言わなくても分かってほしいな」とか言ってくれると嬉しいけど……


「月城くんのご両親は、山の近くに住んでいる農家さんだったよね。君の家で、タケノコは取れる?」

「うん」

「嬉しいな。私、タケノコ好きなんだ」


 はあ……。食欲そっちか……。

 別に期待していたわけじゃないけど。


 …………。


 嘘です。期待してました。


「そっか。じゃあ、家に電話してみる」

「うん」


 僕はスマホを取り出し、家に電話をかける。


『ルナか? 何のようだ?』


 電話から聞こえた声は、いかつい男のものだった。

 父さんだ。


「春休みの間に、家に帰っていいかな?」

『……いいぞ』

「友達を連れて行ってもいい?」

『ああ。明日から三泊しろ。畑仕事を手伝え』

「分かった」


 それだけ言うと、一方的に電話を切られた。


「行ってもいいってさ」

「うん。準備を始めよっか」

「そだね」



***



 次の日。


 僕たちは僕の実家に着いた。


 僕の実家の面積はテニスコート半面ほど(庭も含む)で、『The 日本!』という雰囲気の木造建築の二階建てだ。

 この家は築七十年以上たっているが、まだまだ丈夫だ。


 当たり前だが、電機や水道もちゃんと通っている。


 僕は玄関の引き戸を開け、

「ただいま」

 と言って家の中に入る。


「お邪魔します」


 泉さんも家に入って来た。


 玄関の先の、茶色い木の廊下が懐かしい。よくここで走って、母さんに怒られたな。

 そんな過去の思い出が蘇ってくる。


「お兄ちゃんお帰り!」


 廊下の奥から、十二歳くらいの少女がドタバタと駆け寄って来た。

 顔そこそこ可愛い、どこにでもいそうな小柄な少女だ。


「その子、月城くんの妹さん?」

「まあね」

「ああ! お姉ちゃん、ルナが彼女連れて来た!」


 え?

 お姉ちゃんって……


「ルナ、お前彼女いるのか?」


 奥の部屋から、殴り飛ばされても文句を言えないくらい失礼なことを言いながら、姉さんが出て来た。


 下着姿で。


 全く……なんて格好してんだよ。

 ま、いっか。姉さんだし。


「泉、お前も来たのか」

「お姉ちゃん、この女性ひとと知り合いなの?」

「ああ。私の弟子だ」


 オイ副担任、生徒って言え。

 そんな言い方するから、泉さんが返事に困ってるよ。


「で、ルナは何故家に帰って来たんだ? こんな田舎じゃ、来てもすること無いだろ」


 自分の地元に向かって酷い事言うなあ。


「泉さんがタケノコを食べたいと言うから、連れて来たんだよ」

「じゃあ、さっそくタケノコを取りに行こうよ。れいが案内してあげる」


 僕は妹の月城れいと二人で、倉庫に鍬を取りに行った。

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