第四話 どうしよう。彼女の主は見知らぬオッサン

 泉さんは、今日がバイト初日だから、店の奥で陽菜さんからレクチャーを受けた。


 それが終わると、僕と泉さんの二人でボロアパートに帰った。



***



 ボロアパートに着いた。


「どうしてあの店に来たの?」

「バイトをするため」

「それは分かってる。僕は、泉さんがどうしてあの店を知ったのかを聞いているんだよ」


 泉さんが僕から目を逸らした。


「怒らないから、教えてよ」

「今言った事、ちゃんと守ってね」

「……うん」

「君を尾行したの」


 うん。怒った。


「どうしてそんな事したの!」

「怒らないって言っていたのに」

「僕は過去を振り返らない主義なんだ」

「それってただの自分勝手……」

「とにかく! なんでそんなことしたの?」

「私は月城くんと三ヶ月も暮らしているけれど、まだ君のバイト先がどこなのか知らなかったから」


 あ……

 まだ泉さんにバイト先を教えてなかったな。

 それで、僕のバイト先が気になって、付いて来ちゃったのか。


「怒ってごめん」

「別にいいよ。それよりも、月城くんはどうして、君の店でのバイトを

反対するの?」

「だって……君が知らない客なんかに『ご主人様!』とか言うのヤだもん」


「だから、反対していたんだね」

「……うん」

「大丈夫。私は皿洗い担当だから」




 こうして、僕の小さな心配事は消えた。



 泉さんはまじめに働いてくれてはいるのだが、食器を割ったり、洗剤の量を間違えたりすることが多いので、僕の仕事が増えた。

 まあ、それは別の話である。

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