第二話 終業式

 高校一年生が終わる今日も、僕はいつも通り、自分の部屋の布団の上で目覚めた。


 駅から徒歩に十分、ボロアパート二階、八畳一間のこの部屋が、僕の家だ。


 僕のすぐ横では、泉さんが寝袋の中で気持ちよさそうに寝ている。

 彼女は僕の彼女にして同居人(専門用語で同棲とも言う)の、学校一の美少女(僕調べ)だ。


 彼女と暮らしていると、毎日が楽しい。


 たまにケンカもするけれど、僕は幸せだ、と思う。


 この幸せを維持するためにも、僕は歯を磨いてから制服に着替え、朝ごはんを作った。


「泉さん。朝ごはんできたよ」

「う~ん、あと十時間……」


 オイオイ。

 それじゃあ、学校に遅刻するどころか、学校が終わっちゃうよ。


「ねえ起きて。せっかくの朝ごはんが冷めちゃうよ」

「うん。起きる」


 朝ごはんという単語に反応して、起き上がる泉さん。

 彼女は、睡眠欲よりも食欲の方が強いようだ。


「「いただきます!」」


 僕たちは二人で朝ごはんを食べ、学校に行く用意をしてから、一緒にボロアパートを出た。


 そして学校に向かう。




 これが、冬から始まった僕の新しい日常だ。



***



 学校に着いた。


 教室には田中と佐藤がいた。

 先に学校に来ていたらしい。


「よっ! 月城、泉さん!」

「「おはよ」」


 僕と泉さんの声が重なった。

 どうでもいい事だが、なんか嬉しい。


「今日で学校終わりだな。春休み、予定入っているか?」

「ううん、僕は無いよ。泉さんは?」

「私も予定無いよ」

「じゃあさ、明日、皆で遊園地に行こうぜ」


 余談だが、佐藤がまた一段と男らしくなった気がする。


「「いいよ」」


 また僕と泉さんの声が重なった。

 僕と泉さんの(精神的な)距離は、一月あのときからあまり変わっていないが、こういう時だけ、息が合うようになった。


「じゃ、明日の朝、遊園地の前で集合な!」

「OK!」


 そう言って立ち去ろうとした僕に、泉さんが付いて来た。


「先に教室に行ってて」

「月城くんはどこ行くの?」

「君が入れない場所」

「分かった……」


 ふぅ。

 泉さんは基本的に僕に付いて来る。それ自体は嬉しいことのなのだが、トイレに行こうとしている時は、ついて来ないでほしい。


「ル~ナッ!」

「わ!?」


 いきなり肩に手を置かれて驚き、飛びのく僕。


「なんだ姉さんか……」

「そうだぞ。お前の美しい姉だ。それはさておき、お前また遊園地に行くのか?」


 このクラスの副担任にして僕のお姉ちゃんの『月城 優希ゆき』は、本当に困った人だ。

 どう困った人なのかを言ってしまうと後が怖いので、割愛させていただきます。


「うん、そうだけど。なに?」

「春だなぁ、と思って……」

「先に言っとくけど、連れて行かないからね」

「けち! ルナのいじわる!」


 あんたは子供か!


「成績を下方修正するわよ」

「うわあ、姉さん、そういうのは『職権乱用』って言うんだよ」

「は? 食券乱用? 何言ってんの?」


 とぼけているのではなく、本気で分かっていない様子の姉さん。

 この人は、どうやって教師になったのかな?


「はぁ……分かったよ」


 そう言って僕は、行こうとしている遊園地とは別の、遠くにある遊園地を、集合場所として姉さんに教えた。


 これでもう安心だ。


 ゲスだとは言わないでほしい。

 これも全て、僕と泉さんと佐藤と田中の幸せのためだ。



***



 次の日の朝、遠くの遊園地の入場ゲートで姉さんが仁王立ちしていた。


「ルナたち、遅いわね。もう30分も遅刻しているじゃない。

 そうだ!

 皆遅刻しているし、私だけで遊んじゃえ!

 ルナたちの羨ましがる顔が目に浮かぶわ!」


 姉さんは一日中、独りで遊園地で遊んだ。


 周りの人が姉さんを変な目で見ていたはずだが、恐らく彼女は気づいていないだろう。




 その頃僕たちは、入場ゲートの前にある『本日休園』と書かれている看板の前で固まっていた。


 田中、ちゃんと営業日を調べてから誘ってよ。

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