最終章 Go to future! そして未来へ……

第二十一話 僕

 一昨日、田中に「泉さんのどこが好きなんだ?」と聞かれた。僕はそれに答える事が出来なかった。

 僕は


 ――泉さんの事が本当は好きでは無いのかもしれない――


 そう思うと怖かった。

 そう思ってしまった自分が嫌だった。


 だから、必死になって泉さんの好きなところを探した。でも、ほとんど見つからなかった。


 何としてでも、僕が泉さんを好きだと思っている理由を見つけたかった。

 何かの参考になるかと思って、泉さんに「なぜ僕が好きなのか」を聞いた。


 帰ってきた答えは「優しいから」

 それだけだった。


 泉さんが好きなのは、あくまで僕の優しさであって、僕ではない。

 そんな気がした。


 ハッキリさせたかった。


 僕は本当に泉さんが好きなのかを、泉さんは本当に僕が好きなのかを、はっきりさせたかった。


 でも、それを泉さんに聞いたら、泉さんを傷付けてしまいそうな気がする。


 だから、部屋から出て行ってもらった。



***



 昨日、僕は泉さんに合わせる顔が無かった。それ以上に泉さんと会うのが怖かった。


 泉さんと会って、喜んでいない僕を見つけてしまったら、今までのように泉さんと楽しく過ごす事が出来なくなるから。


 会いたくなかった。


 だから、独りで学校に行った。


 正直、学校で泉さんにあってしまったら、どうなっていたか分からない。あの時君に会っていたら、多分今よりも、悪い状況になってしまったと思う。


 でも、一時間目になっても、君は学校に来なかった。


 焦ったよ。


 僕が泉さんを学校に来れなくしてしっまったんじゃないかって。

 それでも僕は、泉さんが学校に来なくて、良かったよ思っていたんだ。


 そんな、自分が嫌だった。



***



 放課後――君に会おうと思った。


 君の部屋の戸のドアノブに向かって、僕は手を伸ばした。でも、僕の手がドアノブに触れる事は無かった。


 いざ、泉さんに会う事になると思うと、怖くなったんだ。


 泉さんに会うと――いや、泉さんに会ってしまうと、僕がどうなるか分からなかった。


 僕は泉さんが、泉さんは僕が、好きだという事を確認出来るかもしれない。

 そうじゃなくて、僕は泉さんが、泉さんは僕が、好きではないという事を確認してしまうかもしれない。


 それは絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。たとえその結果、終焉を回避できたとしても、絶対に嫌だ。

 例えが大げさに聞こえるかもしれないが、僕にとっては大げさではない。


 だから僕は、現状維持という選択肢を――要するに泉さんと会わないという選択肢を選んだ。



***



 バイトを終えて家に帰って、一日を振り返って、気付いたんだ。

 僕が今まで、孤独という大海で溺れていたという事に。


 泉さん、君はこんな僕を救ってくれた。


 僕は、こんな分かり切った事にも気づかずに、君を拒絶して、傷付けてしまった。


 本当に、僕は最低で、酷い奴だよね。



***



 今日、僕は泉さんと一緒にお弁当を食べた公園のベンチで、独りでお弁当を食べたんだ。


 でも、そのお弁当は、あまり美味しくなかった。


 不思議だよね。いつもと、同じお弁当のはずなのにさ。


 やっぱり、お弁当は――何かをするときは、だれかと一緒の方が、楽しめるんだ。



 ちょっと話が変わるけれど、あの公園は広い。


 あの広い公園で独りでお弁当を食べていると、虚しくなった。孤独が辛かった。

 だから、ボロアパートの僕の部屋に帰った。



***



 ボロアパートの僕の部屋で、お弁当を食べた。それは良かった。


 でも、ボロアパートの薄い壁の向こう側に泉さんがいると思うと、怖かった。泉さんに会ってしまうかもしれないから。


 まだ僕には泉さんに会う勇気が無かったから。


 もし泉さんにあってしまったら、自分が泉さんを好きだと思っていないという事を、確認してしまいそうで。


 だから、すぐにボロアパートの僕の部屋から出た。



 行く場所も無いのに……



***



 行く場所がないから、何も考えずに歩いた。


 で、僕が行った場所は、クリスマスのデートの時に泉さんと行った場所だ。

 クリスマスのデートの時に君と言った場所を、多分僕は全部巡った。


 その途中で、僕は君に会いたいと思っている事に気づいだ。


 その途中で、君のお兄さんに出会った。

 彼は、僕がどうするべきかを教えてくれた。


 だから、僕は今ここにいる。



***



 泉さんは、僕の話を静かに聞いてくれていた。


 時々、頷きながら、苦虫を嚙み潰したような嫌そうな顔をしながら、静かに僕の話を聞いてくれていた。


 そして僕は、話し終わった。


「僕は酷いことをしてしまった。今更許してほしいとは思わない。だけど、謝りたいんだ。

『ごめん』ってさ」


 泉さんが、ゆっくりと、深く、頷いた。


 そして――


「分かった。私は月城くんを――君を許せないよ」


 と、申し訳なさそうに言った。

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