第十二話 ちょっと雰囲気が変わった学校生活

 普段の――いや、高校一年生の二学期までの僕は、特に特徴のなく、目立たない事が特徴の、平凡な奴だった。

 クラスメイトに「君、誰?」って聞かれた事もあるし、田中や佐藤以外のクラスメイトと、話した事もほとんど無かった。



 始業式の次の日。



 誰にも注目された事が無い僕は、クラスメイト全員の注目の的になっていた。


 理由は簡単。

 この学校一の美少の泉さん(僕調べ)と僕は知り合いで、仲がよさそうだからだろう。


 客観的に僕を見ると、今まで平凡で目立たなかった奴が、可愛い女の子と仲良くしているように見える。

 何故だ? 何故こんな奴が可愛い女の子と仲良くしているんだ?


 と、思って僕と泉さんの関係を探ろうとしているのだろう。


 僕と泉さんの関係を探ろうとしていると思われる連中は、恐らく彼女(彼氏)いない組の方々だ。


 もしも僕の家と泉さん家が同じアパートで、僕たちは彼氏と彼女の関係にあると奴らに知られたら、恐ろしい拷問が待っているだろう。


 だから、絶対に僕と泉さんの関係を知られてはいけない。

 そのための最善の手段は、奴らとの接触を出来る限り減らすことだ。

 要するに、奴らから逃げ続けるという事だ。



 この作戦は、思った以上に上手くいった。


 逃げ足だけは早い僕は、怖い人たちから巧みに逃げ続け、無事に昼休みを迎える事が出来た。


 昼休み、姉さんに頑張って作った自分のお弁当をカツアゲされた時、本気で焦った。

 まあ、姉さんから弁当代を奪い取れたから、お昼を購入することが出来たのだが……。


 とにかく、今はランチタイム。


 僕と泉さんと田中、田中の幼馴染の佐藤の4人、人通りが少ない非常階段で昼食を食べている。


 佐藤は田中の所為か、見た目は大人しそうな女子高生、漫画やアニメの趣味は男子高校生になってしまった女の子だ。


 僕とも趣味がそこそこ合うし、正直言って男友達みたいな奴だ。体系も小柄な男の子って感じだし……


 ゲーム好きの彼女は、ゲームが得意な泉さんと気が合うらしく、もう仲良くなっている。


 そうだ。週末に遊園地に行くから、佐藤も来ないか聞いてみよう。


「僕たちは今週の土曜に遊園地に行くんだけどさ、佐藤も来る?」

「昨日、田中に行くって言ったんだけど、月城くんには伝わって無かった?」

「うん」


 良かった。佐藤も遊園地に来れるようだ。


「一応聞いておくけれど、新しい副担任姉さんは来るの?」

「ああ、一応誘っておいたぞ」

「返事は?」

「即答で『行く』と言った」


 あああああああああああああああああああああああ…………。


 僕の頭の中が『あ』という文字に埋め尽くされる。


 姉さんが来るなんて聞いてないよう!


 姉さんの前で遊園地の話をしている時点で、姉さんが付いて来る事が予想できたという説もあるが、姉さんが来る事を黙っていた田中が悪い。よし、決まり! 田中がすべて悪い!


 まてよ……田中に全責任を負わせたとしても、何の解決にもなっていないんじゃ……。


 もういい。


 姉さんが付いて来ると言っているなら、姉さんが付いて来られない状況を作ればいいのだ。


 例えば、姉さんに腐った食べ物を食べさせるとか……。


 この作戦は止めよう。毒か何かを盛ったなら効果があるかもしれないが、腐った食事程度で腹を下す姉さんではない。


 ならどうすればいい……?


「月城くん、そんな怖い顔しちゃって……そんなに優希先生が嫌なの?」


 いきなり泉さんに話しかけられて驚く僕。


 その所為で、たまごサンドのたまごサラダを少し落としてしまった。


「あ、うん嫌。すごく嫌」

「でもさあ、お前贅沢言いすぎじゃないか? 可愛い彼女に、大人っぽくて美人のお姉さんがいるのに、文句言っちゃダメだぞ」


 大人っぽくて美人ねぇ。

 確かに姉さんは美人かもしれないけれど、大人っぽくはない。

 夕飯の希望が聞いてもらえなかっただけで、駄々をこねるような人を『大人っぽい』というのなら話は別だが、僕の感覚では姉さんは子供っぽいと思う。


「月城、姉弟きょうだいいたんだ。てか、彼女いたんだ!」

「そう言えばお前は知らなかったんだな。こいつの姉は副担の優希先生だ!」

「ええぇぇえ!」


 佐藤、大声出さないでよ。僕を睨んでくるあいつらに見つかったらどうするのさ。


「で、月城くんの彼女は誰なの!? こんな奴の彼女だから、ブスなの!?」


 おいおい……。佐藤の中で僕の評価はどんだけ低いんだよ。


「そう思うだろ? でも違うんだ。こいつの彼女は、この泉さんだ!」

「はあぁぁぁああ!?」


 鼓膜が痛くなってきた。


 てか、田中の僕の評価も、どんだけ低いんだよ。


「ちょっと泉さん、あなた、どんだけ男に餓えていたんだ? もしかして前の学校は女子高とか?」

「ちょと、月城くんはいい人だよ」

「こんな奴のどこが?」


 グサッ!


 僕の心に大きな槍が突き刺さった。僕はそれに耐えれず吐血する。(心理描写)


「月城くんはいい人だよ。優しいし……優しいもん!」


 いいぞ泉さん! もっと言ってやれ!


「他には?」

「…………」


 ほら早く! 僕のいい所を言ってやってよ!


 そんな僕の期待とは裏腹に、泉さんは僕をチラッと見てから、


「ごめん」


 と、小さな声で謝った。


「ほらっ、(月城のいい所は)そんだけしかないじゃん」


 ズグサッ!


 どこからともなく、ポセイドンとかが使いそうな巨大な槍が飛来して、モズの速贄の如く僕を串刺しにした。(心理描写です)


「佐藤、お前酷いぞ。月城にはもっといい所があるじゃないか」


 田中、言ってやれ! 君と僕は中学の時からの友達だから、僕の長所をいっぱい言えるだろ?


「月城は料理が上手い!」


 なんか微妙……。他に何か無いの?


「確かに」

「月城くんが作ってくれたオムライス、凄く美味しかったよ」


 納得する佐藤と泉さん。

 あれ? 僕の長所って優しくて料理が上手な事だけなのかな?


「やべっ。もうすぐ授業が始まるじゃないか! 帰るぞ!」


 僕たちは教室へと急いだ。

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