三章 Bad! ハプニングだらけの三学期
第十話 始業式
「泉さん、僕、明日が始業式なんだ」
「私も明日が始業式だよ」
ここで泉さんとの会話が終わった。ついでに今日も……。
***
今日は始業式。
僕と泉さんは朝食を食べた後、学校に向かった。
泉さんの学校は僕の学校とは別の学校らしい。制服も違うし、方向も違う。
だから、途中で分かれることになった。
15分ほど歩くと、学校の校門が見えて来た。
「よっ。月城じゃないか」
校門の前で僕は田中と
「明けましておめでとう!」
「あ、うん」
僕は曖昧な返事をする。
「ん? お前の彼女、今日はいないのか?」
「うん。違う学校らしいんだ」
「そうかぁ。残念だな」
「田中、何故君が残念がるの?」
「決まってるだろ? 可愛い泉さんに会えないからさ!」
何が決まっているんだよ。
まあいいか。元からこういう奴だし。
***
始業式が始まった。
僕ら生徒は校長先生の長くて退屈な話を聞いている。
この高校の校長先生は、ゲームや漫画の世界に出てくる、盗賊団のお頭みたいな奴だ。
僕は、生徒たち相手に演説するよりも、斧か何かを振り回して強盗をしている方が似合っていると思う。
こんな事本人の前で言ったら、間違いなく殺されるだろうな。
そんな事を考えていると、長ったらしい演説が終わり、暇と睡魔との戦闘から解放された僕たちは、自分の教室へ向かった。
***
先頭を歩いていた同じクラスの誰かが扉を開けて教室に入る。他のクラスメイト達もそれに続いて教室に入る。
僕は使い慣れた一番後ろの自分の席に座った。
「月城、彼女との調子はどうだ?」
「その話、ここでしないでもらえるかな」
「ん? どうしてだ? 別にいいじゃないか」
「だって、あいつらに殺されそうだし」
僕はもてない男子三人組を指差した。その三人は「リア充ってムカつくよな」って話している。
「ああ、分かった」
どうやら僕の気持ちを理解してくれたようだ。
「おーい、席につけー」
教室にあの中二病先生が入って来た。クラスメイト達が慌てて席に着く。
「まず、お前達に良い知らせが二つと悪い知らせがある。どっちからがいい? 多数決するぞ~」
先生は、こういう人なのだ。
どうせ全部聞かないといけないのなら、どんな順番でもいいじゃないか。
それでも僕は、良い知らせから聞く方に一票入れた。
「よし、いい知らせから言うぞ。喜べ! このクラスに可愛い転入生が来る!」
急にテンションが上がるクラスメイト達。
「だが残念なことに、来る途中で迷子になってしまったようなので、紹介は後だ」
急にテンションが下がるクラスメイト達。
お前ら、自分の心に正直だな。
「次は悪い知らせだ。副担任の山田先生が、海外旅行に行ったっきり帰ってこないんだ」
教室に重い空気が立ち込める。
山田先生……。
いい先生――でもなかったし、子供っぽい変人だったけれど、急にいなくなっちゃうなんて……。
クラスの女子が恐る恐る手を上げ、中二病先生に震える声で質問する。
「先生、山田先生はどうして帰ってこないのですか?」
「現実に帰りたくないと駄々をこねた挙句、帰りの航空券を破ったらしい」
思う空気が、明らかに別の何かに変わった。恐らく呆れに変わったのだろう。
「最後にいい知らせだ。新しく、美人の副担がやって来たぞ!」
中二病先生の発言に一歩遅れて(僕を除く)男子たちのボルテージが一気に上昇し、窓が割れんばかりの大歓声を――――否、轟音を発した。
可愛い転入生と美人の副担が一度にやって来るという事実を知り、テンションのリミットがぶっ壊れてしまったのだろう。
女子たちは、そんな男子たちを心底迷惑そうに見つめている。
「お前たちの気持ちは分かる。だが静まれ。副担は寝坊で遅刻らしい。まだ学校に来ていない」
転入生は迷子。副担は寝坊。たるみすぎだよね。大丈夫かな?
それから時間が流れ、あともう少しで帰宅できるという時に、誰かが教室の戸を叩いた。
「あ、来たようだな。待ってろ。あいつらと話してくる」
先生は教室から出て、戸を叩いた人を怒鳴りつけてから、教室に戻って来た。
「え~、新入生と副担が来たようだ。入れ」
教室の扉が開き、泉さんが教室に入って来た。
クラスの皆が、泉さんを見ている。
ん? あれ? 泉さん?
「自己紹介しろ」
「はい。私、泉彩良です。よろしくお願いいたします」
「泉には学校側の都合で制服が届いていない。服装は違うが、仲良くしてやれ」
やっぱり泉さんだ。どうしてここにいるんだろう?
呆然と泉さんを見つめる僕を無視して、先生は続ける。
「席は、月城の横が開いている。そこに座れ」
僕の近くまで歩いてきて、僕に驚いた。
「やっぱり、月城くんだよね。気付かなかったよ」
「あ? 月城、泉と知り合いなのか?」
「ええ、まあ」
「なら、しかっり泉の面倒を見るんだぞ」
「……はい」
泉さんが僕の隣の席に座る。
周りの人たちの視線が痛い。どこかに隠れたい。
「次に、新しい副担任だ。入れ」
開けっ放しの扉から女の人が教室に入って来た。
知性を感じさせる瞳に艶のある黒い長髪、背は高めで、胸も、かなり大きい(普通の美的センスの人が)どこからどう見ても、美人と呼ぶにふさわしい人物だ。
「初めまして。今日からこのクラスの副担任を務めさせていただく、月城
一見ちゃんと挨拶ができているように見えるが、彼女のポケットから、カンニングペーパーと思われる紙がはみ出している。
彼女は教室を一通り見渡して、僕と目が合った。
「あ、ルナじゃん。ここのクラスだったんだ」
クラスの皆が「『ルナ』? ルナって誰だ?」とざわめき出す。
ルナとは僕の名前だ。僕のフルネームは『月城
勘違いされていそうなので言っておくが、僕は男装女子ではない。
れっきとした男子高校生だ。
ルナとは、ローマの神話に登場する月の女神の名前で、母が僕に付けた名前だ。
母は、月のお城の女神様という名前になるからいい、と思っているらしいが、男の子にルナは酷いよ。
ルナ何て奴はこのクラスにいないという事で、事態は収束した。
月城優希先生は不満そうだったが、取りあえず良しとしよう。
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