第九話 初日の出
空が明るくなり始めたので泉さんを起こした。
「もう日の出の時間?」
「うん! ほら見てよ」
僕が指差す先の空は、下の方から徐々に紅に染まり、明るくなってきている。
「綺麗……。ここに連れてきてくれて、ありがとう。それから、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「…………」
泉さんがの方を向いて、可愛らしく微笑んだ。
「? どうしたの? 顔が赤いよ」
「太陽のせいだよ」
こうして新しい年が始まった。
お御籤は大凶だったけれど、今年はいい年になる。
根拠なんてないけれど、そんな気がする。
「帰ろうか」
「うん。でもその前に御守りを買わせて。僕大凶だったから」
「なら二人で同じのを買おうよ。私も御守り、欲しいから」
僕たちは見た目だけで御守りを選び、購入した。
選んだ御守りは長寿守り。これって若者が買う御守りなのかな?
ま、いいか。見た目は凄く可愛いし。
御守りを買ってから僕は、トイレに行くふりをして厄除けと恋愛成就の御守りを買った。
***
帰りの電車の中、僕と泉さんは熟睡してしまい、終点まで行ってしまった。
寝不足のせいだと、僕は思う。
***
あと……少し……。
鉛のように重たい脚を引きずりながら、僕は険しい山道を進んでいる。
息苦しいのを我慢し、自分で自分を励ましながら進んでいると、不意に視界が開けた。
頂上だ!
「月城くん、遅かったね。大丈夫?」
動きやすそうな服で身を包み、背に大きなリュックを背負っている泉さんが声をかけて来た。
「早くお弁当を食べよ」
「うん!」
僕たちは適当な場所に腰掛け、リュックからお弁当を取り出し、それを食べ始めた。
「富士山の上で食べるお弁当は最高だね」
うんと答えようとした時、遠くから何かが飛来してきているのに気付いた。
あれは――鷹!?
鷹が僕のお弁当めがけて飛んできたので、僕はお弁当を持ち上げて体を反らし、鷹を避けようとした。
それがいけなかった。
僕はバランスを崩して、山の斜面を転がり落ちた。
そして、積み上げられたなすびの箱に突っ込み……
***
「うわあ!」
勢いよく布団から飛び出す僕。
どうやら変な夢を見ていたようだ。
山から転がり落ちる夢と言うものは、恐怖以外の何でも無いが、初夢で富士山と鷹となすびが一度に見れたので、良しとしよう。
「もう、食べられないよ……」
今のは、すぐ横で寝ている泉さんの寝言らしい。
彼女はいい夢を見ているらしい。幸せそうに口をもごもご動かしている。
僕はため息をついてから、睡魔に襲われて二度寝した。
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