第四話 映画観賞

 次に向かったのは映画館。


 デートといえば映画だろ。という考えは僕の偏見かもしれないが、泉さんも「映画を見たい」と言ってくれたので、映画を見ることにした。


 僕は、異世界ファンタジーの映画を見たかったのだが、泉さんが「違う映画がいい」と言ったので、泉さんが好きな映画のチケットを買う。

 映画のジャンルはラブロマンス。


 正直、このような映画は苦手だ。

 それでも、泉さんと二人で見るのであれば、楽しめる。と思う。


 ポップコーンの一番大きいサイズを一つ買い、映画が始まるのを待った。

 上映開始時刻には、ポップコーンが空になっていた。


 映画館の中は、カップルでごった返している。

 ほぼ満席である。


 スクリーンにどうでもいい映画の宣伝が流れた後、映画が始まった。


「泉さん、始まるよ!」

「うん。楽しみだね」


 オープニングの音楽が終わる。

 いよいよ映画が始まった。

 (オープニングは映画の一部なのかな……? 細かい事は気にしないでいっか)

 僕は何となく泉さんを見る。


 そこには、泉さんの寝顔があった。


 え?

 まだ始まってから十分もたってないよ。


「ねえ、起きて」


 泉さんに呼びかけたが返事は無い。

 ただの爆睡している泉さんのようだ。


 開始早々泉さんが寝た。

 この映画を見たいと言ったから、お金を出してあげたのに、上映開始直後に爆睡した。


 泉さんと一緒に映画を鑑賞できない事を残念に思いながら、僕は独りで映画を楽しんだ。




 映画が終わった。

 この映画は面白かった。


 男子高校生が見るような映画ではないことは分かっている。(ラブロマンス好きの男子高校生の皆さんごめんなさい)


 それでも、この映画は面白かった。


 だが一つだけ腑に落ちない点がある。

 それは『一目惚れ』という現象についてだ。


 この映画の中では『一目惚れ』によって、『愛』が生まれていた。

 一目惚れによって生まれた感情を『愛』と呼んでいいのだろうか?


 もしも呼んでいいのなら、相手の容姿に恋してるという事になる。


 気持ち悪!


 考えてみて欲しい。

 「あなたの容姿に恋をしました」と言い寄る異性のことを。


 女の子に言い寄られるのは大歓迎! という意見は無視するとして、大半の人が気持ち悪いと思うだろう。

 僕もそう思う。


 王子様に一目ぼれして王子様を追いかけるヒロインは、ストーカーと何が違う!


 かなり違う気がする。


「ん? もう映画終わったの? 気持ちよかったね」


 泉さんが起きたので、一目惚れの話題は終わりにしよう。


「気持ちいいって、映画の感想じゃないよ」

「だって、映画館の椅子はフカフカで気持ちいいんだもん!」


 気持ちは分からなくはないが、せっかくお金を払ってあげたのだから、寝ずに映画を見て欲しかった。




 その後、商店街を二人で歩いていると、甘い香りを辺りに放つクレープ屋さんを見つけた。

 泉さんが、そのクレープ屋さんを物欲しそうな目で見つめている。

 しかし、クレープ屋さんはかなりの行列だ。十分は待たなければならないだろう。


「僕が買ってくるよ。そこで待ってて」


 僕は近くにある、植木屋ベンチがある広場を指差した。

 泉さんが「ありがとう」と言ってから、そこに向かう。

 それを見送った僕は、クレープ屋さんの行列の最後尾に並び、メニューが書かれている看板を見た。


 そういえば、泉さんが何を食べたいか聞いてない。


 一番安いクレープと二番目に安いクレープを買えばいいかな?


 買う物が決まってしまったので、暇な時間が始まった。


 僕は、暇つぶしのためにポケットからスマホを取り出した。

 スマホには、田中からメールがきていた。

 映画館でマナーモードにしたから、気付かなかったのだろう。

 僕はマナーモードを解除してから、田中からのメールを開いた。


 メールには、たくさんの精神病院の一覧や、幻覚妄想についての基礎知識が書かれていた。

 一般的に知られていることから、専門的な知識まで色々な情報が分かりやすくまとめられている。

 田中は本気で僕の事を心配しているのだろうか?

 僕は『僕は病気じゃないから大丈夫だよ』と返信する。


「はあ、これからどうしよう? 暇だな……」


 そうつぶやいた時電話の着信音が鳴った。


「何の用事?」

『お前朝言ってた少女はどうなった?』

「幻覚じゃないから大丈夫」

『幻覚じゃないわけないだろ。お前に彼女が出来るわけない……』


 僕は問答無用で電話を切った。


「……。本当に幻覚じゃないよね?」


 僕は不安になって来たので、泉さんの方を見た。そこに泉さんがいる。

 背が高くてガラの悪いチンピラに絡まれている泉さんが。

 泉さんは見るからに嫌がっている。


 ここからだと状況がよく分からないが、どうやらナンパされているらしい。

 周りの人は見て見ぬふりをしている。誰も泉さんを助けようとしない。


「誰か泉さんを助けてあげて」


 僕の言葉を聞く者はいない。耳にした人はいるだろうが、誰も実行しようとはしない。


「誰か……」


 誰か? 『誰か』って誰? 

 僕以外の誰かのことか?


 そんな誰かはいない。泉さんの彼氏は僕だ。僕が彼女を助けなくてどうする。



「助けなきゃ」



 気が付くと、僕はクレープ屋さんの行列を抜け、泉さんの方へと歩いていた。

 そして、チンピラと泉さんの間に割って入る。


「誰だお前?」


 チンピラが口を開いた。思いっ切り僕を睨みつけてくる。


 すごく怖い。

 巨大なライオンに睨まれているちっぽけなウサギになったようだ。



 逃げたい。



 だが、逃げちゃダメだ。

 泉さんは僕を孤独から救ってくれた。今度は僕が彼女を救う番だ。


「僕は、この子の彼氏だ」

「だから? 俺は彩良と話しているんだ。ガキはひっこんでろ」


 チンピラに胸倉をつかまれた。せっかくのいい服に皴が出来てしまう。


 僕は全身の力を使ってチンピラを殴る。しかし、僕の拳はチンピラに届かなかった。

 泉さんが僕の腕を掴んだからだ。


「やめて!」

「でもこいつは、君に……」

「私は大丈夫。この人は、私のお兄ちゃんなの!」



「はい?」



 間の抜けた声を出す僕。



 泉さんの言葉の意味を理解するには、少しばかり時を要した。

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